日本の農業:第254集:産地での米流通構造の多様な展開
■発行日:2020(令和2)年12月20日
■対象:日本
■報告:吉田 俊幸(一般財団法人農政調査委員会理事長・高崎経済大学名誉教授)
■コメント:田家 邦明(中央大学経済研究所客員研究員)
■在庫:あり
■ページ数:157p.
■目次:
- 要旨… 1
- 第1章 産地での米流通の構造変動と論点… 10
- 第2章 契約取引と流通コストの削減及び買取・受託販売する直売経営者の形成—生産者直売の統計・実態分析… 18
- 第3章 農協の米販売・事業改革と農協直売を含めた米販売の多様な展開 … 46
- まとめ… 147
- コメント… 154
■要旨、まとめ、より:
産地での米流通は、構造変動を遂げており、今後も変化が予想される。30年産の流通主体シェアは、生産者直売が259万t(出荷・販売の45%、16年対比7ポイント増)、販売委託(全農・経済連経由)が219万t(同38%、16年対比7ポイント増)、販売委託(全農・経済連経由)が219万t(同38%、12ポイント減)、農協直売が80万t(同14%、5ポイント増)である。産地では、生産者直売、農協直売、全農共販・共計及びその他流通業者が、併存し、集荷・販売競争を展開している。
我が国における水田農業の担い手は多様化が進んでおり、これまで農業を担ってきた家族経営に代わって、集落営農組織、複数戸による共同経営や、さらには家族経営であっても多数の雇用を抱えるものなども出現している。
各章のまとめを踏まえ、産地での米流通は、制度的な規制がなくなったため、構造変動を遂げており、今後も変化が予想される。構造変動を規定しているのは、産地の米・集荷販売競争のもとでの生産者直売も農協直売及び全農共販・共計が事業内容や方式を変革し、米の消費・流通の変化と集荷・販売競争への対応が構造変動を規定している。
さらに、産地での米流通が自由化したため、各道県や地域における流通条件及び生産者、農協及び県連の戦略や販売力によって、各県、市町村での産地の流通構造が独自の展開を遂げている。
各地区の構造変動を規定しているのが、生産者直売の新たな動きと直売を中心とした農協米事業・販売改革及び県連(ホクレン)の共販改革である。しかも、三つのセクターの販売力や事業戦略の優劣が各産地の多様な流通構造の変化を規定し、同時に、流通構造の変化が各セクターの集荷・販売事業改革の契機となっている。
産地での流通構造の変化のもとで、生産者は、経営判断に基づき直売とともに農協直売、非全農共計や共計等の販売先のなかから選択することが可能となった。努力する生産者とそうでない生産者との間では、販売先も異なっており、生産者手取りにも格差がうまれており、平等原理から公平原理への転換が進展している。
なお、需要に応じた米の生産・販売を推進している産地とくに農協は、飼料用米等を削減し、需要が見込める米とくに業務・加工用米等へ転換している。
産地の構造変動を担う生産者、農協、ホクレン等の県本部にとって、今後の産地改革を推進する上での大きな課題は、需給動向を的確に示し、生産・販売の指標となる市場価格が存在しない点である。生産者直売も農協直売でも、取引価格や生産者手取りを決める基準は、全農の仮渡金と相対価格のみてあり、ところが、出荷契約も取引先との契約の田植時期には、需給動向を判断の材料となる指標価格が存在しない。
今後、米消費の減少にともない各産地への「生産の目安」も削減されるが、削減率は平等配分と予想される。努力する産地、農協、生産者にとっては、生産・販売の努力が報われないシステムである。また、多額な助成金に依存した飼料用米は、努力しない産地・農協・生産者にはメリットがあるが、努力する産地・農協・生産者には報われない制度である。
「需要に応じた米生産・販売」を担っている産地・生産者・農協、県連にとって、現行の飼料用米を軸とした米の生産抑制と価格維持システムは、水田農業の産地変革に障害になると予想される。米・水田政策における平等原理から公平原理の転換が求められる。国内の米需要が減少するなかで、需給と価格動向を指標として産地が判断するシステムの構築が「需要に応じた米生産」の基本である。
同時に、国内の需要減をカバーするには、米・米加工品の輸出を含めた新規需要米の拡大が不可欠である。そのためには、コスト削減による国債競争力の強化も必要であるが、輸出が生産者の所得向上につながる支援策等が必要である。つまり、飼料用米を柱とする市場隔離による価格維持から転換、需給を反映した価格形成と生産者支援策の再構築が求められる。「食料・農業・農村基本法」の原点にたちもどり、需給を反映する市場の構築と価格下落に対するセーフティ・ネットの再構築が必要である。