のびゆく農業:No.1048:台湾の新南向政策と台湾農政
■原文:
・台湾の新南向政策と台湾農政
■発行:2020年5月31日
■解題・翻訳:長谷美 貴広(南開科技大学)
■対象:台湾
■ページ数:41p.
■在庫:あり
■目次:
- 解題
- 新南向政策工作計画
- はじめに
- 1.経済貿易協力
- 2.人材交流
- 3.資源シェアリング
- 4.地域連携
- 新南向「地域農業発展」フラッグシップ・プラン
- 1.政策の起源
- 2.政策ビジョン
- 3.目標と戦略
- 4.行動計画と予想される主な成果
- 付録 主要業績評価指標(2020年末まで)
■解題より:
本稿では中華民国(以下、台湾)行政院の作成した「新南向政策工作計畫」(2016年9月5日行政院提出)および同農業委員会の作成した「新南向『區域農業發展』旗艦計畫」(2017年8月17日発布)の2つの政策文書について紹介する。
新南向政策は、台湾が東南アジア・南アジア諸国およびオーストラリア・ニュージーランドなど18カ国と政治・経済的連携関係を深め、中国の政治的、経済的圧迫に対抗しようとするものである。この政策には、台湾の置かれた国際的孤立状況、国内の社会・経済の危機的状況が反映されている。
新南向政策は、現在の台湾の国際的な立ち位置を知るうえで重要な政策であるといえるが、その遂行と目標を実現するには、外交チャネルの少ない台湾一国の力ではあまりにも過大であるといえる。台湾政府としては華僑ネットワークを大いに活用しようとしているが、台湾を国家レベルで後押しするパートナーが必要なことはいうまでもない。そこで、重要となるのが日台関係である。
新南向政策の中で、日本との関係についてふれた1項があるが、これは、新南向政策の推進に日本とのパートナーシップが重要という台湾の立場を表明したものとして受け取れる。現に、蔡総統が機会をとらえては日本とのパートナーシップ形成について言及している。従来、東アジアにおける西側の重要なプレイヤーであった韓国は、日米韓の安全保障体制から離脱しつつあり、東アジア情勢混乱の火種となる可能性が高まっている。また、米中対立のはざまで台湾のもつ地政学的重要性が高くなっている。
だが、一方で、台湾は政権の交代によって、対日政策が大きく変化する国家であることも忘れてはならない。冒頭、蔡政権誕生に至るまでの経緯を長々と書いた意味はここにある。何を根拠にしてか日本人が台湾に寄せる素朴な好意がそのまま通ずるほど、台湾は甘い国家ではない。これらの状況・条件を踏まえて、日本は、東アジアにおけるパートナーとして台湾の新南向政策の推進にどのようにかかわるべきなのかを考えてみる必要もあるだろう。分野によっては台湾と共同歩調をとることも当然必要であるが、日本は、外交上の制約の中でこれらを実行できるのだろうか。重要な課題であるといえる。