2025年8月25日 : 第268集:令和の米騒動・中期的な米需要・生産予測と米・水田農業政策-米増産・直接支払い・米輸出・多様な担い手-
■発行日:2025(令和7)年7月1日
■編著:農政調査委員会
■在庫:あり
■ページ数:p.149
■目次:
第一部 米需要・生産予測と令和の米騒動が提起した生産調整政策の課題
- 第1章 「米穀流通2040ビジョン」-野心的シナリオの要点(全国米穀販売事業共済協同組合理事長 山崎元裕)
- 第2章 「令和のコメ騒動」-原因と今後の課題(農業ジャーナリスト 熊野孝文)
第二部 従来型農政からの脱却の方途
- 第3章 日本の安全保障を脅かす農政リスクー日本のコメは世界の食料安全保障に貢献できる(キャノングローバル戦略研究所研究主幹 山下一仁)
- 第4章 日本の直接支払いの現状と本格導入への展望(明治大学農学部教授 作山巧)
第三部 米輸出拡大の意義と現状・課題
- 第5章 農業・農村の持続的な発展と多様な担い手(東京農業大学国際食料情報学部教授 堀部篤)
- 第6章 「米輸出の現状と可能性」その1(株式会社クボタ アグリ生販推進部部長 宇部善男)「米輸出の現状と可能性」その2-ハワイ・アメリカでの米輸出の可能性-(株式会社クボタハワイ社長 住中卓史)
- 第7章 米輸出の現状と本格的な米輸出拡大の条件と課題(一般財団法人農政調査委員会 吉田俊幸)
あとがき-揺らぐ米産業・水田農業の存立基盤と必要な政策転換(一般財団法人農政調査委員会 吉田俊幸)
■「あとがき」より:
本書は、五十数年にわたる米減産・生産調整政策及び離農促進により米産業・水田農業の存立基盤が揺らいでおり、米増産・米輸出拡大への政策転換の必要性と直接支払い等の課題を提起する内容である。
第一部「米需要・生産予測と令和の米騒動が提起した生産調整政策の課題」、第二部「従来型農政からの脱却への方途」、第三部「米輸出拡大の意義と現状・課題」の3部構成となっている。
第一部は、「第1章 米穀流通2040ビジョン-野心的シナリオの要点」(山﨑)と「第2章 令和の米騒動」-原因と今後の課題」(熊野)であり、中期的な米需要・生産予測及び令和の米騒動の総括から政策転換の必要性を詳細に論じており、第三部への課題提起でもある。
2024年に、「新しい食料・農業・農村基本法」が、2025年に新しい「食料・農業・農村基本計画」がそれぞれ制定された。食料自給率の向上とともに農産物輸出が位置づけられ、とくに後者では2年後水田農業政策の見直しとともに米輸出の大幅な拡大が計画目標となった。しかし、その内容は、不明確であり、従来までの米減産と生産調整の枠内である。
2040年の主食用米の需要予測は、農林水産省が対2020年比31%減の493万t(新しい食料・農業・農村基本法作成のための資料)であり、全米販が同41%減の375万t(米流通2040ビジョン、農林水産省のデータに高齢化の進展による需要減を加味した推計)である。
さらに、全米販は米生産者が2020年対比65%減の30万人、生産量が50%減の353万tと予測している。同時に、新たな基本計画作成部会の予測によると、2030年の経営体数の予測は2020年の81万経営体から54万経営体へ33%減である。とりわけ、米・麦・大豆土地利用型経営体は60万経営体から27万経営体へ54%の減である。米・麦・大豆土地利用の作付面積は、2020年の216万haから142万haへ35%の減である。
主食用米の需要量及び米等の土地利用型経営体及び作付面積の予測は、米産業・水田農業が2030年・2040年には、その存立・継続が困難となる指標でもある。しかも、これらの現状と予測は、五十数年にわたる米減産・生産調整政策及び離農促進・規模拡大、低コスト化政策の結果である。しかし、新たな基本法と基本計画では、その枠組内での部分的改革に留まっている。したがって、予測を大幅に改善する米需要量と米・水田農業を見込むことが困難であり、さらに悪化する可能性がある。
全米販の「ビジョン」では、2040年の流通業者の経営が赤字となり国内の米生産が需要を賄いきれなくなる可能性を直視し、「野心的シナリオ」を作成した。野心的シナリオは、輸出などによる需要拡大、生産支援等を通じて、米産業業界が魅力的な産業とし2040年の米需要量を722万tに拡大する画期的な内容である。そのための具体的な米産業・水田農業政策が求められる。
さらに、令和の米騒動は、「供給を抑え米価の維持を優先する旧来型の農業政策、(つまり、生産調整政策)にあり、いまこそ政策をみなおす好機といえる(日経新聞2024年9月2日)。なお、「令和の米騒動」-原因と今後の課題」では、「流通のめづまり」(農林水産省)ではなく、生産調整による米減産が主要な原因であり、米不足・価格高騰を契機とし、多様な流通チャンネルが形成されていることを事例に基づいて示唆している。
まさに、米産業・水田農業を維持・発展させ、魅力ある産業にするためには、政策転換が求められている。第二部では、政策転換の方向について、米増産・米輸出と直接支払いおよび稲作・水田農業を維持・発展するための農地政策とその運営の在り方を各論者がそれぞれの立場から検討している。
第二部「第3章 日本の安全保障を脅かす農政リスク」(山下)では、「従来型農政への脱却と減反廃止の意義」-輸出拡大、食料自給率向上、直接支払いをはじめ農地行政改革等、多面的な農政改革の方向を提起している。「第4章 日本の直接支払いの現状と本格的導入への展望」(作山)では、直接支払いの定義、先進国の現状を踏まえ、「主要先進国の農業保護の主体は米国が消費者への補助金、EUが生産者への直接支払いなのに対し、日本は関税であり直接支払いは少ない」。「日本農業の収益性は長期的に悪化しており、┄主食用米に対する直接支払いへの恩恵は生産者だけではなく消費者に及び」が、財務省とJAグループであり、その政治的な均衡を崩す必要があると指摘している。
「第5章 農業・農村の持続的な発展と多様な担い手」(堀部)では、政府の「8割集積目標」を推進しているが、幾つかの事例から地域では機能しておらず政策体系として改善点を提起している。水田農業では「上層」(担い手)と中小規模、高齢農家とで農村社会が形成されており、上層だけでは農地・農村を維持できないと指摘している。さらに、農地政策の法律、手法が変化しているため、国と市町村の現場との間で信頼関係に齟齬が生じている。その中で、地域計画と集積率を最重視しないで地域農業の発展のためのより良い方策を検討する時期にきている。と述べている。
第三部は、米増産・生産調整の見直しの重要なポイントである米輸出拡大の意義と現状・課題についての報告と検討である。「第6章 米輸出の現状と可能性(その1)」は、商業用米輸出量第2位のクボタグループの米輸出の取組と今後の課題である。クボタグループの米輸出は、玄米輸出・現地精米、外食向け輸出戦略である。そのために、輸出米の品質・在庫管理、納入先への指導等を行っているが、今後は、現地での品質・価格競争を強化するとともに生産者には交付金とセットで主食用米と同じ水準の所得を確保し、米生産の一形態として輸出を位置づけることをめざしている。
「第6章 米輸出の現状と可能性(その2)-ハワイ・アメリカでの米輸出の可能性-」では、ハワイに精米工場を建設し進出した戦略の報告である。ハワイは、米文化が定着しており確実な需要があり、日本米が他の国の米との品質・価格競争力を持つことを明らかにしている。さらに、アメリカへの米輸出拡大もアメリカの米需要から可能性があることを示唆している。
「第7章 米輸出の現状と本格的な米輸出拡大の条件と課題」では、米輸出拡大は食料自給率向上の最善の方策であり、米・水田農業及び地域農業維持・発展につながる。また、米輸出は麦・大豆の転作より安上がりな水田利用策であるとともに安上がりな備蓄システムでもある。米輸出は拡大してきているものの、生産量の1%程度である。輸出先の現状と産地の状況を踏まえた、市場での深掘りと販路の拡大が必要となっている。同時に、品質・価格競争力を強化するには、低コスト化とともに抜本的な支援策が必要となっている。
(補注1)米高騰を抑制するために、備蓄米は随意契約に変更した。さらに、農政・米改革のための関係閣僚会議を発足させ、生産調整等の見直し・米増産が検討されると推測される。前回の十数年前での関係会議の検討から直接支払いの案が検討された。
(補注2)トランプ関税は米輸出拡大のチャンスである。2024年のアメリカの米輸出量8,784tであり、交渉により関税が上昇する可能性がある。一方、アメリカと厳しい関税交渉の対象国は、米消費量が存在し、交渉の結果次第ではアメリカの米市場が空白になる可能性がある。カナダへの輸出量が2,138tであるが、アメリカからの米輸出15~20万tである。さらに、アメリカからのメキシコへの米輸出量69万tであるが、日本からの輸出は、332tである。欧州は国内の米需要を満たすために輸入に頼っており、イギリス、フランス、ベルギー、ドイツが主な輸入国である。FAOSTATの報告によると、2022年、この地域は531,925haで300万tの米を生産した。同時に、ITC Trade Mapのデータによれば、同地域は550万tを輸入しており、欧州はコメの純輸入国である。うち、3割がバスマティ米であるが、アメリカ米も輸出されている。