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理事長の部屋:米輸出の意義・現状と課題

米輸出の意義・現状と課題

(一財)農政調査委員会理事長  吉田俊幸

 

はじめに

 令和の米騒動と価格高騰の要因は,「供給を抑え米価の維持を優先する従来型の農業政策(つまり,生産調整政策)にある。いまこそ政策を見直す好機」(日経新聞9月2日)である。また,「従来の負のスパイラルから脱却。米の増産する方向への転換」(元農水省官房長,荒川,日本農業新聞11月20日)である。石破首相も「日本だけが,税金を使って主食の生産を減らし,農地を減らしている」と米の増産の必要性を提起している。

 米の増産への転換には,米・米加工品の輸出拡大が必要である。 米・米加工品の輸出拡大は,人口減と主食用米需要の減少のもとで,米生産を維持・拡大し,米産業と水田農業の発展に寄与する重要な手段である。同時に,輸出拡大のためには,供給を抑制し米価維持の生産調整政策から所得補償政策による米増産政策の転換が必要である。

 そこで,米・米加工品の意義を検討し,商業用米輸出の現状と課題を明らかにする。

 

(1)米・米加工品の輸出拡大が米・水田農業の存続と自給率向上策

 まず,米・米加工品の輸出拡大は,もっとも有効な食料自給率(カロリーベース)の向上,維持策である。

 カロリーベース自給率を数式で定義すると,以下の通りである。

 カロリーベース自給率=国内生産量(国内生産消費仕向量+輸出量)/国内消費仕向量(国内生産量+輸入量-輸出量+在庫増減量)である(カロリーベースの換算)。

 自給率向上のためには、分子である「国内生産量」(=国内生産消費仕向量+輸出量)を増加させ、分母である「国内消費仕向量」(=「国内生産量-輸出量+輸入量+在庫増減量」)を減少させることである。

 第一の自給率拡大の方策は,米の輸出拡大である。米の輸出拡大により,分子である国内生産量を増加させ,分母である国内消費仕向量を減少させるので,カロリーベースの自給率を向上させることになる。農水省が推計している自給率100%以上の国(アメリカ,オーストラリア,フランス等)は,穀物の輸出国である。

 第二の方策は,輸入農産物(麦,大豆)の国内生産量を増加させ,輸入量を減少させることである。この方式は,米の作付制限とともに助成金による麦・大豆への転作を誘導する現行の生産調整のシステムである。しかし,日本の実態に則して検討すると,食料自給率の低下につながっている。

 単収(10a当たり)は小麦が約450㎏,都府県では390㎏,大豆が約150㎏であり,米の平年収量537㎏に比べてかなり低い水準にある。仮に,転作によって稲の作付減少面積と同じ面積を麦,大豆の作付面積を拡大したとしても,米の生産減を麦・大豆の増産でカバーできない。結果的には,カロリーベースの自給率は低下する(注1)

 

(注1)農水省「食料自給率の変動要因」によると,米の消費減によるカロリーベースの自給率低下の寄与率(平成22年0.7%減,平成27年の1.6%減,令和3年3.0%減,4年3.0%減,5年2.8%減)が大豆,小麦の増産による自給率上昇寄与率(22年0.3%増,27年1.3%増,3年1.6%増,4年1.6%増,5年1.8%増)をいずれの年次を上回っている。小麦・大豆の転作による自給率向上は,米消費減をカバーできていないのである。

 

 米・米加工品の輸出には、食料自給率向上とともに以下の意義がある(注2)。

 まず,第一に,分析のように,日本での食料自給率向上と食料安保の有効な方策の一つである。

 そして,第二に,輸出拡大による国内での稲作生産の維持・増大は,適地適産を通じて,優れた生産装置である水田を維持し,国内・地域農業の基盤を維持することになる。水田は稲作を生産することが最適な利用法であり,農業・農村の振興にもつながる。

 第三に,米輸出は安上がりな備蓄システムであると同時に需給調整機能をもつ。一定の数量の輸出量があれば,国内需給がタイトになった場合には,輸出数量を一時的に減らすことによって,需給調整が可能であり,したがって,備蓄数量の削減にもつながる。

 第四に,水田を維持することは,水田のもつ多面的機能を通じて環境保全に貢献する。

 

(注2)山下一仁『食料安全保障の研究』(日本経済新聞出版2024)では,「食料安全保障のために不可欠な水田農業」と位置づけて,さらに輸出拡大による自給率増加と備蓄機能及び「緑のダムとしての水田農業」「生物多様性の維持など水田の多面的機能」を指摘,米麦二毛作を推奨している。

 現行の経営所得安定対策の交付金(10a当たり)の水準からみても、米の輸出拡大の財政負担が小さい。22年産を例にとると,交付金は小麦が7万9千円であり、大豆が6万2千円、飼料用米が8万円から11万7千円、そば4万9千円である。米輸出に対する新規需要開拓事業は約半分の4万円である。現行の制度でも小麦,大豆,飼料用米の半分以下の財政負担で、水田利用保全と自給率向上につながる。その理由の一つは、米の国際価格が平均的な推移でみると、とうもろこしの約3倍,小麦の2倍だからである。

 

 以上の意義に加え,米・米加工品を輸出拡大は,直接支払いとの組み合わせを通じて,消費者負担から財政負担への転換の契機となる。直接支払いは生産者の所得確保とともに米価の低下を通じて消費者にメリットが生じる,生活弱者対策でもある。

 さらに.米輸出は,人口増のもとで米に対する国際的需要増への積極的な国際貢献でもある。日本のみが生産調整により米の生産制限は国際的にも特異な政策である。

 ところで,米輸出は,近年,着実に増加したとはいえ,主食用米の国内需要量の1%にも達していない。水田での現在の水張り(米生産)面積を持続的に維持し拡大するには,主食用米の減少量(農水省の予測では年間10万t減)に匹敵する量の米・米加工品の輸出拡大が求められる。そのためには,現状を踏まえ,幾つかの課題を克服することが求められる。

 以下,わが国の商業用米輸出の現状・取組と課題を検討する。

 

(2)輸出米単価の低下と主要な輸出先(香港,シンガポール)とともに欧米での拡大

 2023年の商業用米の輸出数量は,対前年比29%増の37186t,金額では27%増の94億円,販売単価は,253円/㎏である。コロナ前の18年と対比すると,数量が2.66倍,金額が2.51倍であり,単価は273円から253円へ低下した。24年8月までの前年対比では,金額で29%増,数量で24%増であり,22年対比では金額で64%増,数量で59%増である。

 輸出量の増加にともない輸出米単価が低下と輸出国の多角化が進展している。まず,主要な輸出国が香港,シンガポールにアメリカが加わり,カナダ,EUの増加率が高くなっている。

 輸出米の平均単価は2007年に561円/㎏であったか,16年以降270円前後までに低下し,21年には260円,23年には253円へ,07年に比べ55%も低下した。しかし,24年になると,国内米価の上昇の影響を受け,輸出米単価は横這いないしやや上昇となっている(表1)。

 輸出米単価の低下と量的な拡大により,「日本米の売り場を確保できているのは、日系の百貨店やスーパーだけ。日本米の消費者は在留日本人と一部の富裕層にとどまる」(日経新聞19-0-26)段階から業務用米や一般家庭用向けのスーパー,小売へ市場への開拓が進展している。

 

 表1商業用輸出米の輸出単価(円/㎏)の輸出国別推移 農水省資料より作成

 

18年

21年

22年

金額

 

23年

 

 

24年

 

単価

単価

数量t

百万円

単価

数量

金額

単価

単価

合計

272

260

28928

7382

255

37188

9411

253

264

香港

247

237

9880

2344

237

11301

2630

233

242

アメリカ

315

279

4459

1169

262

6883

1769

257

281

シンガポール

220

206

5742

1201

209

5593

1153

206

212

台湾

336

302

2352

716

304

3116

877

281

279

カナダ

312

329

382

104

272

1629

394

242

251

豪州

310

317

1245

390

313

1204

386

321

329

タイ

253

259

1045

256

245

1299

307

236

253

英・独

293

333

765

243

318

1169

379

324

324

中国

403

381

764

262

343

526

170

317

333

仏・

スペイン

394

432

324

121

373

939

271

289

300

その他

313

341

1790

576

322

3527

1078

306

313

 

  輸出国もアジア中心から欧米地域にも輸出量を拡大している。

 輸出先別の推移をみると,22年までは,第1位,2位は香港,シンガポールであり,2国のシェアは18年が57%,22年が54%と過半を占めていた。また,18年より1000t以上の輸出国としてアメリカ,台湾が加わった。4国のシェアは75%であり,22年では,78%である。

 香港,シンガポール向け輸出は,当初より業務用米を中心として販路を拡大してきた。香港では「輸出業者が日系中食・外食へ販路を拡大」,シンガポールでは「日系中食・外食を中心に販路を拡大」(農水省資料)してきた(注3)。そのため,18年の平均単価が272円なのに対し,香港が247円,シンガポールが220円,21年の平均単価が260円なのに対し,香港が237円,シンガポールが206円,さらに,23年の平均単価が253円に対し,香港が233円,シンガポールが206円であり,国内の米価と比較してもかなり低い水準である。両国への輸出は高品質米よりも外食用向けの需要に沿った価格帯の米が中心である。(表1)。

 

(注3)神明ホールディングスの子会社である元気寿司は香港に90店舗、 シンガポールに22店舗等を展開している。(2023年9月末時点。現地法人によるフランチャイズ)

  香港・シンガポールいずれの店舗においても日本産米使用(JA登米(宮城県)が生産する輸出用米(ひとめぼれ、つきあかり)している。

 百農社は日本米おむすび専門店(華御結、OMUSUBI)を展開し, 現在、オフィス、ショッピングモール,地下鉄駅構内等に141店舗を 展開(2023年10月中旬時点)。米は全て日本産米を使用(農業法人や商社,クボタ等から調達)している。 店舗の拡大に伴い, 数百トン規模での食味のよい安定した品質のコメの供給を求めている。(以上,農水省資料)

 クボタでは,22年の輸出実績5480tのうちシンガポールが2,860t(シェア51%),香港が2421t(シェア21%)である。両国において,クボタは中食,外食向けへ販路を開拓している。前述百農社の原料をクボタが供給している(クボタ資料)

 シンガポールで24店舗展開しているチェーン店に炒飯にあう米と,炊き方を提案し,継続使用が実現した。(クボタ,農水省資料)

 

 次に,22,23年の輸出先別の輸出量の推移をみると,22年まで1,2位で輸出量の過半を占めていた香港,シンガボールの伸び率が鈍化し,アメリカ,カナダ,タイ,EUへの輸出の伸び率が高くなっている。18年対比の輸出数量の伸び率は平均2.66倍なのに対し香港が2.41倍,シンガポールが1.77倍であり,アメリカが5.37倍,カナダが11.8倍,タイが3.79倍,フランス,スペインが6.72倍である。英国,ドイツも23年の22年対比が1.53倍である(表2)。

 その結果,1,000t以上の輸出国は18年から22年までは,香港,シンガポール,台湾,アメリカの4国であったが,23年になると,前記4カ国に加えカナダ,豪州,タイが加わり7カ国となった。また,23年になると,アメリカが2位へ,シンガポールが3位となった。23年の香港,アメリカのシェアは,49%,上位4カ国のシェアが72%である。

 販売数量の増加にともない販売単価もアメリカが18年の315円から23年には257円へ,カナダが312円から242円へ,タイが253円からん236円へ,フランス・スペインが394円から271円へ低下している。これらの国でも,日本米の需要が在留法人や一部の富裕層からミドルレンジ層にも波及していることを示唆している。

 

表2米輸出伸び率の国別推移(倍)農水省資料より作成

 

23/18

 

23/22

 

24/23

8月まで

 

数量

金額

数量

金額

数量

金額

合計

2.66

2.51

1.29

1.27

1.23

1.29

香港

2.41

2.27

1.14

1.12

1.16

1.21

アメリカ

5.37

4.38

1.54

1.51

1.34

1.46

シンガポール

1.77

1.66

0.97

0.96

1.16

1.20

台湾

2.66

2.23

1.32

1.22

1.15

1.14

カナダ

11.8

9.16

4.26

3.78

1.66

1.67

豪州

1.90

1.95

0.97

0.99

1.14

1.19

タイ

4.06

3.79

1.24

1.20

1.33

1.46

英・独

2.09

2.31

1.53

1.56

1.72

1.74

中国

0.60

0.81

0.70

0.65

0.21

0.23

仏・スペイン

8.61

6.72

2.90

2.24

1.23

1.29

その他

3.33

3.26

1.97

1.87

 

 

 

 その例が第2位の輸出先となった米国への輸出拡大の動きと要因にある。アメリカでの輸出拡大の契機は,22年には主産地カリフォルニアの不作による供給不足と価格上昇である。さらに,アメリカでの日本米の外食,小売店での戦略的販路拡大が効果を挙げつつある。

 米国農務省によると,22年産の米国の中・短粒種の生産量は146万tで前年から3割減であり,主産地のカリフォルニア産の減少幅が大きく,同州産の5月の取引価格は平年比で6割程度高くなった。23年末では,米国では,同国産米の店頭価格も高騰し,円安傾向もあって,価格差が縮小するだけでなく,米国産米が日本産米を上回るケースもあった。米国産米の高騰で日本産米の引き合いが強く,「北米や欧州向けに新たな取引が増えている」(日本の大手米卸,農水省資料)。カリフォルニア産米の減少と価格上昇により,カナダでのアメリカ米のシェアが低下したことが日本米の輸出拡大つながっている。

 

表3米国での店頭等の価格(全中国際・食料レター22年12月)

 

 

 

 

 

 

 しかし,23,24年なると水不足がなくなり,23,24年産では収穫量が増加し,23/24年期24/25年期と2年連続の価格下落(ジェトロレポート)している。それでも,カナダ,アメリカへの輸出量が伸びている。その要因は,西海岸,東海岸での,日系小売店需要を開拓や複数のおむすび専門店が店舗展開している(農水省資料)。つまり、日系高級外食,小売向け中心の販売からスーパー等の小売店やおむすび店等のミドルレンジ層に販路が拡大されている。しかし,アメリカの米消費量は,1人当たり12㎏,年間492万t(農水省食料安全保障年報,UADA PS&D)に比べると日本からの輸出量はわずかな量である(注4)。

 アメリカは,米の魅力ある市場であるが,東,西海岸だけではなく中部,南部地域を含めた市場開拓が課題となっている。そのためには,運賃コスト,スーパー等への常置のための戦略が必要となっている。

 

(注4)「現在アメリカからの引き合いが強い。┄アメリカの米消費量が増加している。アメリカの米消費量は2000年には380万tであったが,2022年には480万t,100万t増加している。ロサンゼルスのどのスーパーに行ってもテイクアウトの寿司コーナーがある」藤尾益雄「神明グループの取組と食料・農業への提言」『米産業に未来はあるか・水田農業の動向と将来展望』農政調査委員会2023年

 

 EUへの輸出の増加は,欧州の米不作が一つの契機となっているといわれているが,輸出の取組が本格化したことも一つの要因と考えられる。

以上のように,主要な輸出先は,伝統的には香港,シンガポール,台湾であり,そのシェアはが6割程度を占めている。近年,アメリカ、カナダへの輸出米の伸び率が高くなっており,輸出先の一つの地位を占めるようになった。さらに、オーストラリア,EUへの輸出量も増加しており,輸出先が多角化している。同時に,輸出単価の動向をみると,欧米等でも高級日系小売、レストランとともにミドルレンジ層への販路が拡大し,その動きが,輸出単価の低下に反映している。

 

⑶各企業,全農,生産者グループの米輸出の現状

 次ぎに, 各輸出業者,農協,生産者の米輸出の事例からその現状と今後の課題を検討する。

①シンガポール,香港での外食・中食向けの需要拡大そして,アメリカへ進出-クボタグループ 

⒜徹底した市場調査と現地精米による現地の需要に沿った販売戦略-クボタグループ

 グボタグループは,日本の全輸出量の約1/4を占める米輸出の有力企業の一つであり,主な輸出先は香港,シンガポールであり,24年にはハワイに精米工場を建設し,アメリカでの販売を本格化した。

 クボタの資料(ホームページ,及び「クボタ日本産輸出事業」の報告資料)によると,21年の輸出量が5,830t(全輸出量の25.5%),香港が2,732t(香港向け輸出量の30.6%)シンガポールが2,394t(シンガポール向け輸出量48.1%),22年が6,570(同22.7%),香港が2,421t(同24.5%)シンガポールが2,860t(同49.8%),23年が8,272t(同22.2%),香港が3,222t(同28.5%),シンガポールが2,770t(同49.5%),モンゴルが150t(84.3%),アメリカが18t,国内商社経由が1,748tとなっている(注5)。

 

(注5)2024年9月現在,輸出量は6,903t(21.7%),香港が2,577(27.3%),シンガポールが2,324t(49.8%)、モンゴルが111t(69.8%),国内商社経由が1,748tとなっている。

 

図1 クボタグループの米輸出と主な輸出先(クボタホームページ)

 

 

 

 

 

 

 以上のように,クボタはトップクラスの米輸出企業であり,シンガポール向けの輸出では,半分のシェアを占め,香港向けの輸出では約1/4,モンゴル向けの輸出では,7~8割を占めている。

 クボタの米輸出は,初期から香港,シンガポールにターゲットをしぼり,現地精米を特徴とし,日本の全輸出量の20~25%を占めてきた。

 「クボタは日本産米の海外販路拡大を通じて日本の農業に貢献することをめざし、2011年に香港に久保田米業(香港)有限公司,2013年にはシンガポールにKubota Rice Industry (Singapore) PTE. Ltd.を設立した。日本から輸入した玄米を現地で精米・販売している。そして、レストラン等の外食・中食(おにぎり店)を中心に新鮮なコメを武器に販路を拡大してきた(「海外現地精米で需要を開拓」(高橋元,『米産業に未来はあるか』農政調査委員会 )。

 香港,シンガポールを中心に輸出拡大に成功した要因は,「市場を知る」ことから出発した販売戦略にある。(前掲(高橋元)。その第一歩は,輸入国の輸入や食品加工事業ライセンスの取得難易度及び販売価格条件を調査することである。第二は,選定した輸出国の米に関する需要や市場性を検討することである。

 たとえば,クボタが主な輸出先である香港,シンガポールでは,米は,約90%が外食産業で消費されている。日本国内のような家庭向けの需要拡大施策ではなく,外食産業向けに価格,品質,供給態勢などを強化した。短粒種は,中粒種及び長粒種に精米後のタンパク質の酸化や水分の蒸発などに起因する劣化が進行しやすい。また,炊飯工程が複雑であり,現地のレストランで定着するが難しい。(以上の問題や課題への)対応や解決策を講じる事によって,日本米の市場は拡大してきた。

 

表4クボタの米輸出戦略と対策(「米産業に未来はあるか」高橋)

 

 

 

 

 

 表のような市場対策,品質対策,供給・炊飯対策に基づいて,業務用中心に香港,シンガポール,モンゴルでの米輸出を拡大した。その成果は,前述のおむすび専門店,中華店の販路確保に表れている。

 百農社は日本米おむすび専門店(華御結、OMUSUBI)を展開し(注6), 現在,オフィス,ショッピングモール,地下鉄駅構内等に141店舗を 展開(2023年10月中旬時点(注7))。米は全て日本産米を使用(農業法人や商社,クボタ等から調達)している。 店舗の拡大に伴い, 数百t規模での食味のよい安定した品質のコメの供給を求めている。(以上,農水省資料)

 クボタは,22年の輸出実績5480tのうちシンガポールが2860t(シェア51%),香港が2,421t(シェア21%)であるが,中食,外食向けへ販路を開拓し,供給している。

(注6)前述の百農社(日本米おむすび専門店(華御結、OMUSUBI)の141店舗を 展開。数百tの原料米の多くを供給。(以上,農水省,クボタ資料)

(注7)シンガポールで24店舗展開しているチェーン店に炒飯にあう米と,炊き方を提案し,継続使用が実現した。(クボタ,農水省資料)

 

 さらに,市場調査によりハワイを新たな輸出市場として本格的に進出した。「ハワイは米食文化」であり,「日系人も多いハワイの一人当たりのコメの消費量はアメリカのなかでもトップクラスにあり,今後も需要が拡大していくことが予想される」(グボタホームページ)。なお,ハワイは人口140万人(日系人31万人,在留法人2.4万人),1人当たりの年間米消費量が45㎏であり,日本の1人当たりの消費量と余り差がない。ハワイで消費される米は,カリフォルニア米が主体であったが,近年,日本産米やベトナム産が増加している」(前述報告)。その要因は,ハワイはアメリカ本土からの輸送コスト等により,カリフォルニア米も本土と比べると相対的に高価格となっている。また,米需要も増大しているので,日本米やベトナム米にも需要の余地が生じ,今後,拡大が期待される。

 そこで,「クボタハワイを設立し、2024年春からハワイ州内で日本産米の輸入・精米・販売を開始する┄将来的にはアメリカ本土(アメリカの米消費量492万t)への進出も視野にいれている」(グボタのホームページ)。販売先はレストラン,中食業者及びドンキホーテグループ(28店舗)である(クボタハワイの報告資料)。

 

⒝子会社,支店経由の輸出米の確保-ミドルレンジに焦点

 米輸出米の確保は,子会社等を通じた産地との連携協定及び生産者グループと生産者からの集荷である。

 まず,新潟クボタ(新潟農商)は,県内の契約農家からの輸出米を23年に約4,000t,25~26年には5,000tを集荷目標としており,グループの輸出米の約半分を占めている。輸出用米としての契約品種は,コシイブキ,にじのきらめき,ユキンコ舞等の多収で,価格が低い米である(日経新聞6月14日、村上市での経営体ヒアリング)。

 2019年よりクボタグループと提携して「まっしぐら」の輸出に取り組んでいる青森県七戸町では,23年度、約583tの同町産米を輸出している。27日は同町産米を使用しているシンガポールの飲食店のマーケティング担当者らが同町を訪れ、輸出用米を作っているほ場などを視察した。本年度は法人を含む23戸が生産した米を輸出する予定である。同グループによると,21年から今年までの輸出量は同程度で推移し、クボタが手がけた県産輸出米の約3分の2を占めている(東奥日報9月28日)。

 JA福井とクボタと連携し,福井県産米の輸出を拡大している。輸出量は、20年が787t,21年が974t,22年875t,23年が約1,500tと拡大している。22年以降,輸出専用新品種のシャインパール等600tを輸出する計画である。クボタのシェアは,福井の7割程度をしめている。

 

②香港、シンガポール、アメリカを中心に30ケ国に輸出,JAとの連携-神明

⒜販売拠点と子会社を通じた多様なルートでの米輸出-神明

 最大のコメ卸神明は、米の海外輸出に関しても業界トップレベルのシェアである。神明のホームページによると,輸出数量は,22年が前年比23.2%増の7,607t(全体の26.3%),23年が約9,660t,同26.0%である。輸出相手国は30ヵ国である。23年の内訳は,香港が最多の3,237t(22年現在,香港のシェアが33%)で36.7%増、次ぐ米国が2,392t(同シェア59%)で同16.3%増であり,オーストラリア625t(同50%)、シンガポール525t(同9%)である。伸び率が高いのが欧州産米の不作を受けたスペインで同136.6%増の320t(同59%)である。香港,アメリカが主体で,ついで,オーストラリア,香港であるが,クボタグループとは違って多くの国に米を輸出している。

 神明は,香港,中国,アメリカ,ベトナムに販売拠点を設置し,子会社と連携しているのが特徴である。有力な販売先は子会社である元気寿司である。元気寿司は香港に90店舗,シンガポールに22店舗を展開し,原料米の大半を,JA登米産米を使用している。さらに,アメリカ,オーストラリア,EUへも販売拠点を通じて,小売,外食用に販売している。

 神明は,生産者グループからも輸出用米も確保しているが,JA-全農県本部経由の契約取引が特徴である。その典型は,宮城登米農協,富山みな穂農協である。

⒝元気寿司用の原料供給-登米農協

 宮城登米農協は,主食用米の消費減少の中で,農家所得の向上と将来の水田農業戦略のため,2018年に神明の提案をきっかけに,輸出米の取組を開始した。2020年には当初の目的の輸出量2,000tを達成し,2021年度には2025年度の目標だった3,000tを,23年度には3583tを達成した。24年度には5,000tを神明と輸出販売契約をしている。その用途は,香港,シンガポールに展開している元気寿司用である(農水省資料,ヒアリング)

 生産者も2018年の235人から2022年には493人に拡大したが,輸出用米の作付面積は全体の7%であり,地域全体の取組となっていない。拡大するためには,外国産米との価格差と生産者の所得を確保することが課題となっている。

 そこで、輸出用米には,「ひとめぼれ」に加え,「ひとめぼれ」よりも10%程度収量の多い「つきあかり」を導入し,さらに,耕畜連携での堆肥の有効活用を通じて低コスト生産を推進している。輸出用米であっても,特別栽培米である環境保全米であり,国内外で評価される米づくりをめざしている。

 輸出米の大部分を占めるひとめぼれの場合,新規需要開拓米の助成金(4万円)と輸出米価格(9,000円)でひとめぼれ主食用米の収入(13万円)と同一水準を確保している。なお,10a当たり収量は,ひとめぼれが9.5俵,つきあかりが10.5俵であり,輸出米の10a当たり所得は13万円を確保している。(農協ヒアリング)。

 

表5登米農協の米輸出(農水省資料,ヒアリング等より作成)ha,t,百万円 

 

18年度

19年度

20年度

21年度

22年度

23年度

ひとめぼれ

938

1291

1784

2126

2087

 

つきあかり

544

641

886

919

 

数量計t

938

1853

2425

3012

3006

3583

金額

 

 

207

393

407

 

 

⒝「地域営農とも補償」と「新規需要米共同計算」による輸出米の所得と量確保-みな穂農協

 JAみな穂は,2009年度より米輸出を開始した。神明グループが,地元産米を包装米飯の原料として使用することとなった。それを契機に,「神明が海外展開に併せて、輸出用米の生産」を提案された。「国は米価の維持を図ろうと生産調整に向けた転作を促す。とはいえ別の作物に転換しようにも,北陸のような雪国では限られる」。「さらに,飼料用米や地力増進作物では果実がない。つまり売上高が伸びない」「輸出用米の生産は,主食用米と同じ「コシヒカリ」。手持ちの農機具を活用し,これまで通りに生産できる。転作田でも生産は可能であり,「コメ農家の仕事はやはり人が食すコメをつくること」なので,輸出用米の生産は,この上ない選択肢である」(日経BPビジネスファーム24年3月28日,当時の組合長談) 

 輸出用米は,JAとJA全農を介して神明が輸出する仕組みである。神明グループとの二人三脚による販路開拓であり,EU,香港,アメリカ,オーストラリア等へ輸出している。2020年が1,142tであり,2024年度約1,550tを見込む。品種はコシヒカリである。

 JAは,米農家ごとに米の生産量・用途を需要に応じて配分して,輸出用米を各生産者に配分している。ただし,販売価格と助成金は、輸出用米、米粉用米、飼料用米で異なっている。また,生産調整に伴う大豆などの集団転作により、農家間の所得に開きが生じれば、不公平感が募りかねない。

 そうした事態を避けようとJAみな穂が町とも連携し取り入れたのが,「地域営農とも補償制度」と「新規需要米共同計算」である。「とも補償」とは、生産調整に伴う経済的な不均衡を生産者相互で補償し合い,ならす仕組みとして一般的なものだ。新規需要米においては用途による不公平感をなくすため、共同計算方式により所得の平準化を図っている。それによって,輸出米はコシヒカリ並の所得を確保している。

 

 以上のように,神明は香港,アメリカ,タイ,EUに販売拠点を設置するとともに,子会社である元気寿司とともに販路を拡大している。輸出米の確保の主な方法はJA,全農と連携している。登米,みな穂農協は,とも補償や共同計算を通じて輸出米の10a当たり所得を主食用米と同一水準にしている。

 

(3)玄米と精米との二本立て輸出-ホクレン

 全農は,米輸出用米(助成金対象)の生産量33,343t(元年産22,608t)の約半分を集荷,集荷した米を子会社及び卸,輸出業者経由で輸出(約4,100t,うち中国200t)している(『全農の米輸出の取り組み』宗和弘「米産業に未来はあるか」)。

⒜稲作付面積の維持を目的で玄米と精米の二本立て-ホクレン

 そのグループ内のホクレンは,北海道米を独自のルートで輸出を行っており,23年の輸出量は6,627tであり,クボタグループ,神明とともに主要な輸出業者である。ホクレンは,15年度より米輸出を開始し,18年にはホクレン精米工場が中国向け輸出指定精米工場の認可を取得した。輸出の目的は「主食用米需要が減少傾向にある中で,将来的に北海道水稲作付面積を守っていくこと」にある。」そして,戦略は「北海道」の知名度をいかしてアジア等へ輸出を拡大している(「北海道輸出用米の取組」南章也『米産業・水田農業の動向と将来展望』農政調査委員会2023年)

 22年度まで,加工用米と輸出米とを共同会計で価格を設定してきた。23年より加工用米と輸出用米の助成体系が分離されたので,両者の会計を区分した。

 ホクレンの米輸出は,産地JAとの連携及び米穀部とパールライス部との二本立ての輸出体制となっている。22年には輸出量は4,704tであるが,うち,パールライス部の精米輸出が約1,500t程度となっている。その中心は香港であるが,次いで,シンガポール,台湾となっている。

 

図2ホクレンの米輸出量(ホクレン,農水省資料)

 

 

 

 

 

 

 23年の輸出実績は,6,627tであり,目標の5,500tを上回っている。また,30年度の目標は1万5千t,うち精米3,000tである。

 

⒝輸出米は米生産量の1割を目標,多彩な輸出活動-東川農協

 北海道内で米輸出を積極的に輸出事業展開しているJAの一つは,東川農協であり,2023年には,440t,25年には1,500tを目標としている。

 米輸出を開始した理由は,第一に,国内米需要の見通しから基幹産業である水稲生産の基盤を守ることを目的に「新たな需要」の獲得することである。そして、輸出用米や加工用米等の生産拡大を図り,水田生産基盤の拡大と総合的な稲作所得の安定化を目指す。

 第二に,地域団体商標「東川米」ブランドを,国外でも評価を獲得し,「世界に誇る東川ブランド」として確立し,国内外需要の拡大にもつなげることである。

 輸出事業の戦略は,国内産地米の集うアジア市場にこだわらず,非米文化圏(欧州等)への輸出にも,取り組む。そして,日本米の輸出実績が乏しい国(フィンランド,オランダ)での各国の市場におけるトップポジションの獲得を狙っていく戦略である。

 輸出の実績は,21年が253tであり,輸出先は台湾,香港,中国であった。22年には,257t(44ha,7カ国),23年には440t(75ha,9カ国),24年計画は702t(118ha9カ国)である。25年には,輸出量を1,200t,米生産量の1割を目標とする。なお,主な輸出先は,香港であり,23年が306t,70%,24年が500t,71%であり,次いでアメリカ,台湾の順である。輸出の8割は,ホクレン経由であるが,フィランド,オランダ等へは東川農協が独自に販路を開拓している。

 なお,輸出米の生産者は全稲作生産者である113戸であり,面積は21年が44ha,22年55ha,6年が118haである。将来の目標は2,114haの1割の211haである。

 

表6東川農協の国別の輸出

 

22年

23年

24年

25年輸出量 金額

台湾

24t

24.0

24.0

玄米24.0    2076万

中国

20.4

20.4

20.4

精米20.4    341.7 

香港

183.5

306.0

500.0

精米日本酒1020 20288万

シンガポール

10.2

10.2

10.2

精米20.4    392.7 

フィンランド

15.4

15.4

25.5

25.5       273.7 

ブラジル

0.12

0.18

0.36

パックご飯,日本酒3.5   600

オランダ

 

2.04

2.04

精米 2             40

ベトナム

 

18.0

40.0

玄米30.0          502.5

アメリカ

 

42.0

80.0

玄米日本酒60.0   1085

タイ

 

 

 

パックご飯,日本酒3.5    600

イギリス

モンゴル

 

 

パックご飯,日本酒3.5    600

ウズベキスタン

18.36

 

 

パックご飯,日本酒3.5    600

合計

271.98

440.16

702.5

1200トン       30000万

 

 輸出米を含めた水田活用米穀の面積を確保するために,町との連携により10a当たり助成金は,国7万円,町1.5万円に設定し,主食用米と同程度の収益を確保している。さらに,また,6月に稼働したライスターミナル精米工場には輸出用施設として位置づけ,精米後の長時間輸送で酸化を抑制し鮮度と食味を維持できるシステムである。それにより,輸出米の品質を維持する。さらに,2005年には東川GAP基準を制定し,2022年に「ひがしかわあぐり2050宣言」をした。栽培方法と精米を通じて海外でのプランドの確立をめざしている。

 さらに,米輸出は玄米・精米輸出だけてはなく,パックご飯や日本酒の輸出に取り組んでおり,米・米加工品の総合的な輸出戦略を積極的に推進している(注8)。

 

(注8)岐阜県の酒蔵が東川町に移転し,酒造好適米を供給し,JAが海外に輸出している。 

 

(4)(株)百笑市場&茨城県米輸出協議会との連携による米輸出

 生産者グループによる米輸出は各地で展開している。農水省資料によると茨城県産米輸出協議会,新・新潟米ネットワーク,大潟村農産物・加工品輸出促進協議会等がある。その中で,年間1,000tを超えているのは,茨城県米輸出協議会である。

 百笑市場&茨城県米輸出協議会は,共同で米を輸出しており,22年には約1200t,23年には2,300t(見込み),24年には25年の目標である3,000tを達成する。主な輸出先は,アメリカ,香港,シンガポールであり,さらに,東南アジア,中東,EU,カナダ等にも輸出している(農水省資料,百笑市場案内,朝日デジタル24年9月22日)。

 国内市場の縮小に危機感を抱いた生産者8名が生産者主導による輸出専門商社を16年に設立し,アメリカ向けに60tを輸出した。さらに,茨城県の協力のもとに茨城県米輸出協議会を設立し,輸出用米の生産・供給体制を整備した。現在では,協議会には,90の経営体が参加している。

 アメリカでの試食販売・営業を通じて,輸出拡大のため,カリフォルニア産米と勝負できる価格設定が必要と認識した。海外実需者が求める価格競争力のある米の供給と生産者所得確保の両立を図るため,多収品種(にじのきらめきさ,ハイブリッドとうごう3号)を導入し,契約栽培を開始した。

 同社の場合,自社で直接輸出する量よりも、海外に米を輸出しているクボタや商社に輸出用米として販売する量が多い。これら企業への卸価格が生産者との契約価格(輸出米)と連動している。組織形態としては生産者が出資して立ち上げた百笑市場がコメの販売会社(卸)であり,クボタなどの輸出商社と交渉し,輸出する形態である。同時に,精米工場を建設し,玄米とともに精米での輸出を選択できる体制を整えた。同時に,百笑市場ではトレーサビリティー強化のため,消費者が生産者の情報を確認できるシステムを構築している(百笑市場,茨城県米輸出協議会ホームページ)。

 

(5)米輸出拡大のための課題-ミドルレンジを対象としたマーケットイン型,産地の供給体制の確立

 商業用米輸出は増加したとはいえ,米加工品を含めても生産量の1%も満たない。今後,主食用米消費量の減少が年間10万t以上であることを考慮すると,従来の供給を抑えた負のスパイラルから脱却し,米を増産する方向への転換が必要である。米増産の核は米輸出拡大である。そのためには,供給を抑え米価の維持を優先する従来型の生産調整政策から所得補償,つまり財政負担を通じて生産者の所得を確保し,米価水準を低下させることである。米価水準が低下すれば消費者にはメリットがあるとともに輸出拡大の経済的条件が拡大する。

 さらに,制度的,政策的な支援策とともに以上の事例を踏まえて,輸出拡大のための今後の課題を検討する。まず,第一に,米輸出を軌道にのせるには,「市場を知る」ことであり,マーケットイン型の輸出である。その前提は,輸入国における輸入や食品加工事業ライセンスの取得の条件を調べ,それへの対策をたてることである。

 そして,輸入国と日本との米に関する需要や市場性の違いを検討することである。日本の米は「おいしい」「高品質」という先入観から脱皮し,輸出国の市場での嗜好,ニーズを把握し,品種,価格水準を選定することである。

 たとえば,有力な米輸出業者のクボタ,神明の主な輸出先である香港,シンガポールでは,約90%が外食産業で消費されている。日本国内のような家庭向けの需要拡大施策ではなく,外食産業向けに価格,品質,供給態勢などを強化している。そのためには,品質と供給の安定とともに適正な価格水準の設定が求められる。

 第二に,マーケットイン型を定着し輸出量を拡大するには,輸出先において販売拠点の設置や現地の外食産業等との提携することである。事実,有力な輸出企業である神明,クボタ,ホクレン等の事例が示している(注9)。

 

(注9)千田みずほも子会社ライスフロンデアKKを設立し,シンガポールでは精米ラインと炊飯ラインを設置し,米を加工して自社配送し実需者に届けるビジネスモデルを構築している。「千田みずほの海外事業」『米産業・水田農業の動向と将来展望』農政調査委員会2023年

 第三に,各輸出先の嗜好とニーズに沿った品質と価格をマーケットイン型の輸出を定着するには,多収穫品種で低価格米を安定的に確保することである。神明,クボタ,ホクレン等の輸出業者は,農協,生産者との契約取引では,多収穫品種で低価格米となっている(注10)。

(注10)青森ではまっしぐら,宮城ではつきあかり,茨城ではにじのきらめき,ハイブリッドとうごう3号,新潟ではこしいぶき,にじのきらめき,ゆきんこ米等の多収穫品種であり、福井では輸出用品種シャインパールである。

 第四に,産地では,米輸出米を産地戦略の重要な柱と位置づけることである。東川農協や登米農協では輸出米の作付目標を水田の10%程度に置いている。そして,輸出米も生産者の手取りが助成金込みで主食用米の水準を確保できるような仕組みを構築している。その例は,北海道東川農協,宮城登米農協,富山みな穂農協である。各農協では,輸出米は助成金込みで主食用米と同水準の10a当たり収益を確保している。さらに,生産者の平等性を確保するために,とも補償制度を導入している。

 第五に,輸出用米の価格が低価格であっても,輸出国の関心が高い環境保全米,地域認証,GAPを取り組んでいる。

 さらに,輸出用の精米工場を整備し,品質保全に配慮している。短粒種は,中粒種及び長粒種に精米後のタンパク質の酸化や水分の蒸発などに起因する劣化が進行しやすいからである。

 以上のように,輸出拡大のための制度の構築とともに輸出業者によるマーケットイン型の販売戦略と産地では輸出米を産地戦略として位置づけることである。(注11)。

 米・米加工の輸出は,生産量の1%も満たない。輸出拡大するためには,冒頭に指摘したように供給を抑制し米価維持の生産調整政策から所得補償政策による米増産政策の転換が必要である。輸出拡大は,今後の米産業・水田農業が存立のための重要な手段である。

 

(注11)2023年の輸出単価であると,米輸出量が50万tならば輸出額が1,270億円,100万tならば2,540億円,米・米加工品では50万tで4975億円,100万tで9,950億円である。この額の一部が産地を還元される。

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