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理事長の部屋:令和の米騒動・米価格高騰の最大の要因-米の生産調整 -水田農業の存続・発展の条件-直接支払と米・加工品の輸出拡大- 「その一」

令和の米騒動・米価格高騰の最大の要因-米の生産調整

-水田農業の存続・発展の条件-直接支払と米・加工品の輸出拡大-

「その一」

                          吉田 俊幸(一般財団法人農政調査委員会)

 

1.令和の米騒動・価格高騰の最大の要因-生産調整政策

  • はじめに

 8月から顕在化した「令和の米騒動」は、9月には表面的に鎮静化したが、9月中旬より24年産米収穫の最盛期が迎えた10月末になっても、各流通段階での米価格が高騰し、流通に混乱が生じている。令和の米騒動の要因は、「供給を抑え米価の維持を優先する旧来型の農業政策、(つまり、生産調整政策)にある。いまこそ政策を見直す好機といえる(日経新聞9月2日)。この指摘は、多くのマスコミや有識者の一つの論調となっている。

 「平成の米騒動」の契機として、食管制度が廃止され、食糧法が制定された。その要因は、凶作が契機であり、制度の機能不全が明確となったからである。作況指数は23年産が101、本年が102という平年作にもかかわらず「令和の米騒動」と価格高騰が続いている。その要因は、凶作という自然災害ではなく、人為的な政策的な要因である。つまり、令和の米騒動は、53年間、実質的に継続した硬直的な「生産調整」の歪みと限界を顕在化させ、所得補償と米の増産輸出への政策転換への契機となる可能性がある。

 以下、「米の生産調整」が、短期的な需給均衡と価格維持にも機能が果たしていないことを明らかにし、54年間続いている米の生産調整により、米産業・水田農業が縮小再生産をし、その存立条件が揺らいでいることを明らかにする。そして、直接支払と米・加工品の輸出拡大による水田農業の再生方向について展望する。

 

  • 令和の米騒動の発生した不明確な要因

 まず、今回の事態の発生した要因について農水省の説明を検討する。農水省は、「米の需要量見通し」を本年3月時点の681万tから7月には702万tに約20万t(2.8%)増に修正した。その増加した要因について、農水省は、①インバウンド増による米の消費増(注1

 ②小麦価格の高騰によるパン等の値段が上昇し、相対的に安くなった米消費が増加③南海トラフ地震のアラームや店頭の米品薄により消費者が買いだめ(スーパー販売数量-POSデーター-前年同期比8月5~11日が38.8%、12~18日が21.4%、19~25日48.6%)等を指摘している。ただし、これらの諸要因を積み重ねても20万t増につながるかは不明である。

 さらに、供給面で④1等米比率による精米過程での歩留り率の低下(精米歩留り率が91.4%から90.6%へ0.8%の低下)、⑤篩い下米の発生量の減少(1.7~1.85㎜が10万t減)等をあげている。

 以上の諸要因を合計しても需給に影響を与えた量は農水省の需給計画によっても主食用米の需要量の2.8%程度にすぎない。わずかな生産や消費の変動が米の価格や需給に大きな影響を与えた。23年産作況指数が101にもかかわらず令和の米騒動が発生し、24年産の作況指数も102にも係わらず、10月末でも価格高騰が継続している。平成の米騒動は、凶作が契機であったが、今回の事態は、人為的、政策的な要因と考えられる。したがって、令和の米騒動が生じた最大の要因は、主食用米過剰による米価低下を回避するための余裕のない生産計画つまり生産調整にある。(注2

(注1)農水省の推計によると、前年比3.1万t増の5.1万t、訪日客が1日2食(入出国日1食で日本人より1.2倍食べると仮定した数量-2食、1.2倍食べるだろうか)

(注2)山下一仁「農水省が備蓄米の放出を拒み続ける本当の理由」『PRESIDENT Online(2024年8月28日付)』。

 

(3)産地から小売段階までの価格高騰と消費減の動き

①集荷競争による農協概算金の高騰と産地での流通の混乱

 令和の米騒動の影響を受け、収穫の最盛期を経過しても、農協の概算金、相対取引価格、小売価格、スポット価格を含めた各段階の米価格が高騰し、流通が混乱している。

 ところで、農水省は、主食米需要量の見通しを本年3月に比べ7月には、約20万t増の702万tに修正したが、24/25年の需給見通しでは673万tへ減少させ、生産量の目標も669万tへ減少させた。需給均衡と価格維持が第一とした見通しを堅持している。

 一方、年初よりの需給がタイトとなり、価格上昇傾向の影響を受け、東北、関東を中心に主食用米の作付面積が前年に比べて1万7千haの増加である。前年より作付面積が増加したのは、国による生産目標配分廃止初年度である18年以来の6年ぶりとなった。さらに、作況指数が102なので、24年産生産量が基本指針669万tを14万tの増である。

 にもかかわらず、各段階での米価格は平成の米騒動、49年ぶりの高騰している。まず、産地での集荷競争により価格が高騰し、農協の集荷が不振になり、その対策として、農協概算金が上乗せされ、24年産概算金は前年比7,000~8,000円の上昇となった。

 具体的には、ホクレンの概算金は、当初、「ななつぼし」が16,500円(前年比+4,000円)、「ゆめぴりか」17,500円(同+3,900円)であったが、「民間集荷業者による価格高騰で(集荷が)苦戦」のため、3,500円を追加加算し、前年比7,500円の引き上げ(ななつぼし20,000円、ゆめぴりか21,000円)である。新潟県本部もコシヒカリが当初の17,000円から2,500円を加算し19,500円と前年比6,600円の値上げとした。新潟県では、各農協では、県本部の提示額よりも500~1,000円程度を上乗せしている。秋田あきたこまちが2,000円追加で18,800円、6,700円の値上げ、宮城「ひとめぼれ」は3,000円追加し19,500円、7,000円の値上げとなった。各産地も概算金の追加加算をしており、前年比50~70%の大幅な値上げとなった。

 さらに、千葉、茨城では各農協の買取価格が2万3,000円台となっており、前年比10,000円前後の引き上げである。

 さらに、スポット取引価格はさらに高騰している。CRの9月の取引会では、上場数量が増大したが、ななつぼしが26,600~27,000円、東北あきたこまち26,400~26,600円、東北ヒトメボレが25,600~27,600円、新潟コシヒカリが28,600~31,000円の高値が提示された。その他の取引会でも、一般米が23,000円前後での取引である。(3)

(注3)CRの10月(1~15日)の取引価格は、比較可能な5銘柄では前年比8~9割高であり、9月下旬と比べジリ高傾向にある。(商経アドバイス10月28日)

 

 概算金や買取価格の大幅な値上げにも係わらず、農協の集荷数量が低下している。全国の集荷業者(JAグループ、全集連)への集荷数量は、9月20日現在、9月30日現在、前年同期比で23%減である。この傾向が推移すると、全農へ委託数量が200万tを割り、180~190万t程度と予想される。産地での米流通が混乱あるいは構造変動が生じている。

 

②相対取引価格と小売価格の49年ぶりの高騰と消費者の買い控え

 概算金や買取価格の上昇により、JAグループが卸等へ提示している相対取引価格も大幅に上昇している。例えば、相対取引価格はゆめぴりかが25,500円(前年比10,600円高)、新潟コシヒカリが23,000円(前年比6,800円高)、宮城ひとめぼれが22,000~23,000円(同7,500~8,500円高)秋田こまちが22,000円(同7,500円高)等、各産地銘柄の相対取引価格が高騰している。

(注)農水省によると、北海道のゆめぴりかは、25,971円(昨年9月比で54%上昇)、秋田のあきたこまちは、22,284円(同46%上昇)

 農林水産省が18日発表した2024年産米の9月の相対取引価格(全銘柄平均、玄米60キロ当たり)は22,700円であり、23年産米を対象とした昨年9月の相対取引価格(15,291円)に比べて48.5%の大幅な上昇となった。

 相対取引価格が 2万円を超えたのは初めてであり、統計を取り始めた2006年9月以降では、最高である。なお、これまでの最高額は、12年9月の16,650円だった。

 その結果、小売価格も昨年比5~8割前後高騰している。相対取引価格の上昇により、「消費地の卸はスーパーの店頭で5㎏当たり3千数百円の設定となる(商経アドバイス10月15日)。事実、9月の東京都区部の消費者物価指数でコメ類は前年同月に比べて41.4%上昇である。9月のコシヒカリ(5㎏)が3,285円であり、3,000円を超えたのは(平成の米騒動)04年以来20年ぶり(日経新聞10月9日)となった。その動きを受けて、小売価格も高騰しており、総務省が18日発表した9月の全国消費者物価指数(2020年=100)では、米類が前年同月比44,7%の上昇、10月では62.3%の上昇と、1197年以来、過去最大の上昇となった。小袋精米だけではなく、生産コストや運送費が上しているため、おにぎりも4.9%アップしている。

 以上の結果、消費者の購入行動も、8月の仮需要から9月の買い控えに変化した。「スーパー販売数量推移(POSデーター)をみると、米販売数量は、8月の各週では昨年同期比で48~48.6%の増加であるが、9月9~15日では11.9%の減、16~22日では22.3%、23~29日では23.8%、30~6日では16.4%の減に転じた。消費者の購入減の影響を受け、大手卸によるスーパー等への精米販売数量は9月以降、前年割れであり、とくに9月21日以降では70%台に減少している。

 小売価格の高騰により、消費者の仮需から買い控えへと変化し、米の消費減、麦製品増加の動きを強めている。「8月26~9月2日では即席カップ麺が34%増、乾パスタが41%増、┄食パン6%増、生麺が10%増であり」「9月30日以降、乾パスタが13%増、乾メンが7%増」「コメからの乗り換え需要が発生している」(日経新聞10月19日)。「今回の特需をきっかけに米食離れを促す可能性がある」

 以上のように、令和の米騒動の産地から小売段階までの米価格は、平成の米騒動以来の高値となり、産地での米流通に大きな変動が生じている。その一方で、消費者の購入行動は仮需要から買い控えに反転し、高値で設定された米価格の影響により、消費量の動向が不透明である。また、主食用米の作付面積と生産数量が、前年より増加しており、スーパーでの販売動向や24年産の作付面積や生産数量の増加をみると、需給が緩和し、一転して下落の可能性も想定される。

 

  • 生産調整のもとでの相対取引価格と民間在庫の変動

 令和の米騒動だけではなく、生産調整のもとで、相対取引価格も民間在庫数量が実際には、変動しており、需給均衡・安定と価格維持という短期的な目標も実際には実現していない。

 農林水産省は、コメの需要が毎年10万tずつ減少するという前提と前年産までの民間在庫を考慮して主食用米の作付制限を実施し、需給均衡と価格維持を目指してきた。

 

 ところが、民間在庫量(6月末)は、図のように、18年が189万tに対して、19年以降、19年が200万t、20年が216万t、21年が218万t、22年が197万tであり、農水省が「適正とする民間在庫量」を20万t前後、上回っていた。在庫量を減らし、相対取引価格(生産者価格)を維持するために、年間需要量を下回る主食用米の作付制限を実施してきた。22年産でみると、年間需要量692万tに対し、主食用生産量を670万tに、需要量が681万tに対し23年産の生産量を661万tに作付制限をした。加えて、「米穀周年供給・需要拡大支援事業」により、年間を通じた販売を支援し、価格安定をめざした。

 20年産以降、民間在庫を減らすため、年間需要量以下の米生産量の作付制限を実施してきた。さらに、19、20年の過剰民間在庫に直面して、過剰米(年間需要量を上回る主食用米)の販売期間を複数年度に延長する調整保管(保管経費の一部を助成)を実施した。2年産では17万tとコロナ影響緩和対策12万t、3年産が40万t、4年産が17万tであった。作付制限と調整保管の効果もあり、民間在庫量は218万tから177万tへ減少した。

 一方、相対取引価格(年間平均)も19年産の1,5716円から、20年産14,529円、21年産が12,804円へ低下したが、22年産では13,844円、23年産では15,307円(6月まで)へ反転したが、令和の米騒動が発生した。

 以上のように、生産調整政策は、多額な助成金と産地指導を通じて、生産量の作付制限と民間在庫量を調整し、需給均衡と価格維持という短期的な目標を目指したが、実質的には達成できてこなかった。過剰在庫を抑制するために年間需要量より少ない主食用米の生産量へ作付制限を実施してきた。20、21、22、23年産では需要量より少ない生産制限を実施していた。その結果、作況が平年作にも係わらず、わずかな要因により需給と相対取引価格が変動して、令和の米騒動と価格高騰の要因となったのである。「供給を抑え米価の維持を優先する旧来型の農業政策、(つまり、生産調整政策)にある。いまこそ政策を見直す好機といえる」のである。(注4

(注4)生産調整政策により、米は主食用米、加工用米、輸出米、米粉米、飼料用米が区分された流通であり、相互に交換することができない。この点も、需給変動に機動的に対応できない要因でもある。

 

次回は、下記の内容について執筆予定。

 2.水田農業の存続・発展の条件-直接支払と米・加工品の輸出拡大

  ⑴生産調整による米産業・水田農業の縮小再生産とカロリー自給率低下

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