農政調査委員会は農業、農村の現場から提言します - Since 1962

日本の農業:第260・261集:日本酒産業の新展開 ―原料調達から地場流通・輸出まで―

■発行日:2023(令和5)年11月15日

■対象:日本

■編著:農政調査委員会

■在庫:あり

■ページ数:184p.

■目次:

  • 第1章 清酒産業の構造変動と清酒製造企業の対応(大仲 克俊)… 1
  • 第2章 清酒製造企業の競争構造と経営戦略開(佐藤 奨平)… 45
  • 第3章 清酒輸出の市場構造と企業行動―コロナ禍前後の変化に注目して―(西川 邦夫)… 72
  • 第4章 清酒製造企業の原料調達における原料米生産の取組(大仲 克俊)…106
  • 第5章 日本酒原材米の構成と日本酒メーカーの仕入方法の変化―地場流通と自社生産が主体へ―(吉田 俊幸)… 137
  • 第6章 まとめ 日本酒産業の新展開と構造変動―未来を展望する―(吉田 俊幸)… 155

■第一章の「はじめに-課題と背景-」より:

我が国において代表的なアルコール嗜好品として生産・消費されてきたのが清酒である。清酒は我が国の基幹的作目である米を主原料とし,兵庫県・京都府を中心とする全国規模で商品を流通・販売を行う大企業から,全国の各地方で古くから立地し,都道府県又はそれより小さい地域単位で流通・消費-原料調達も含め-を行う中小企業で生産されてきた。
ここで,清酒産業の市場構造や市場構造の変化に対する対応について,先行研究から整理したい。戦後から1960年代にかけての清酒産業構造について包括的な研究として近藤(1967)がある。原料米の統制が行われていた時代であるが,清酒製造企業の階層分化の急速な進行を指摘し,大規模・小規模企業の格差拡大と経営の主体性を失いつつある桶売業者の伸展を指摘している。そして,このような構造は食糧管理による原料米割当の制約と1949年に認められた清酒販売の自由化による銘柄の認知度・販売力による格差によるとしている。1980年代前半の清酒産業の市場構造の把握から,市場細分化を通じた地方中小市場の確立を通じた地方の中小清酒企業の存立条件の研究を行った下渡(1986)の研究があり,清酒市場が全国一律でなく,各地域市場を中心に展開していることを指摘している。
戦後から1990年代まで清酒の消費特性も含めた流通構造及び清酒製造構造の変化を通じた寡占化や差別化戦略の追求など,清酒企業の経営対応を包括した研究として伊藤(2000)の研究がある。伊藤は,清酒の卸・小売りといった流通は規制緩和を通じて競争が激化する中で,量販店の低価格化対応と専門卸業等を中心として特定名称酒等の差別化対応が求められるとした。流通・消費の市場変化への清酒製造企業の対応として,兵庫県・京都府といった製造規模の上位企業への集中,新潟県や北海道等での製造規模下位業者である地方酒造業者の淘汰再編とそれら企業による製品差別化の取組みを分析し,清酒製造・販売の二極化の進展を指摘した。
また,地方の中小清酒製造企業を「地場産業」と位置付け,地方清酒製造企業の事例分析を行った研究として矢野(2002)の研究がある。規模の経済を追求できない地方中小の清酒製造企業の存立のために,一般商品から差別化商品によるニッチ市場への対応が必要であることを指摘しつつも,全国市場での付加価値競争が激化する中で,商品の差別化の限界を指摘し,地場産業としての広島県の清酒産業の生き残りが困難となりつつあると指摘している 。そのため地場市場の掘り起こしの重要性を指摘し,そのためには地域の料飲店や酒販店,農業分野との連携が必要であり,そのための行政の役割も指摘している。
その他に,山田(2017)が1990年代から2010年代にかけての清酒流通の変化と清酒製造企業の取引関係の再編を報告しており,特定名称酒といったいわゆる「地酒」を製造・販売している地方の清酒製造企業において,販売チャネルの再構築が求められるようになったと指摘している。特に製造技術の進化による大吟醸等の高品質な清酒が安価な価格で売られるようになり,流通と大手メーカーとのPB商品の開発等が進む中で,地方の清酒製造企業が生き残るためには,特約店等の流通チャネルの再編が必要としている。
 このように,地域の地場産業であり,地域農業と関係が深い食品産業である清酒産業であるが,清酒の消費及び製造量は減少し続けてきた 。また,清酒製造量の減少は,清酒の原料米の利用量の減少に繋がっている。
 一方で,清酒は近年の日本食の海外普及を通じて清酒の輸出 が増加しており,清酒製造企業において輸出は経営展開において重要な選択肢となっている 。また,従来と異なる需要先への取引は,原料米の調達 や清酒製造,商品開発において新たな取り組みを必要とすることになる 。さらに,大手清酒製造企業の普通酒への集中,中小清酒製造企業の差別化による特定名称酒への集中の構図は当てはまるのだろうか。
 そこで,本書では,全国規模に商品を流通・販売を行う大手清酒製造企業から地方で事業展開を行ってきた中小清酒製造企業まで広くヒアリング調査に基づく実態調査を行い,清酒製造や原料調達,海外輸出も含めた商品の販売の実態について把握し,現代における清酒製造企業の経営展開について考察を行う。

書籍購入のメール送信フォームへ

Share

Warning: Use of undefined constant publication - assumed 'publication' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/apcagri/www/apc/wp-content/themes/apcagri/single7.php on line 58