日本の農業:第267集:地域計画と法人・農家の経営構造-新潟県村上市の統計・アンケート・実態調査-
■発行日:2024(令和6)年9月1日
■対象:日本
■編著:農政調査委員会
■報告:古田恒平・堀部篤・西川邦夫・吉田健人・吉田俊幸
■在庫:あり
■ページ数:p.103
■目次:
- 第1章 本調査研究の課題と構成(吉田俊幸)
- 第2章 村上市における農業構造変動(古田恒平)
- 第3章 農地市場の動向と集積・集約に向けた取り組み(堀部篤)
- 第4章 規模拡大と生産力構造-水稲単作との関係-(西川邦夫)
- 第5章 水稲の品種構成と農家の販路の状況(吉田健人)
- 第6章 地域農業・農地保全と多様な経営体・規模拡大と生産性の向上は?-論点と補足(吉田俊幸)
■「第1章」より:
本書は、2023 年新潟県村上市の経営体の実態調査および市のアンケート調査に基
づいた調査分析である。同時に、2014 年の調査「米価下落と制度改革下での水田経営
と小作料問題」(拙稿)を踏まえ、約10 年間の変化も踏まえ、農業の構造変動と地域
農業の視点から各章で分析をしている。
第2 章「村上市における農業構造変動」は、村上市農業について、地区ごとの違い
を踏まえ、農業構造変動の視点から全体像を把握した。村上市の経営耕地面積は、都
府県に比べて減少がおだやか、つまり、農地を維持しながら構造再編が進展している
ことが村上市の特徴である。同時に、地区別にその構造変動、農地保全に差が生じて
いる。その地区差が構造変動と地域農業の在り方に示唆をしている。
地区別のいくつかの特徴を例示すると、荒川地区は団体経営体とともに5ha 以上の
農地集積に農地が最も維持されている。神林地区は 1~5ha 層が維持され、農地が維
持されている。朝日地区は、団体経営体の農地集積が高いが、小規模層の離農跡地が
集積されるか、大規模経営の効率性と安定性が明確ではない。山北地区は条件不利地
域のため、地域農業の存続が課題となっている。
第3 章「農地市場の動向と集積・集約に向けた取り組み」は、人・農地プランが地
域計画として法定化され、農地市場や地域農業構造に与える影響が大きいが、運用実
態、効果について充分に検討されていない。村上市の事例で農地市場の動向を踏まえ
て検討する。着目するポイントは、地域農業の持続的な発展を展望するにあたって、
多様な農業者の維持・確保という視点である。村上市の2 章で示された地区別の農地
集積、農地保全の動きをローンツ曲線のジニ係数で検討している。
市のアンケート調査と水田台帳により地区別・水田作付規模別、規模に関する経営
意向を分析し、今後の経営意向は、現在の作付面積規模だけではなく後継者の有無も
影響していること明らかにした。
賃借料の動向と参考小作料制度の機能では、参考小作料制度が村上市では機能して
いるが、その算定方式を具体的に検討している。借り手市場の地区では小作料低下の
歯止めになっていることを指摘した。
地域政策の策定に向けた取組では、市・農業委員会による集落協議の支援の内容を
具体的に検討し、耕作地の交換や受けての範囲は主要の議題となっていない。
集落協議では、農地貸借が共有されるとは限らないし、耕作地の交換や入り作者間
の調整が難しいことを指摘している。
これまでの構造政策では、現状の面積や農業所得水準等によって、政策目標=担い
手=集積率の分子が決まっていたが、このような集積目標に邁進することが地域農業
の持続的な発展につながらない。やや小規模・中規模程度の兼業・主業農家も担い手
になる可能性があることを前提に、政策対象を考える必要がある。
地域計画の策定では①受け手同志の協議が充分におこなえないこと、②市・農業委員
会職員の支援が難しいこと、③政策目標が機能していなことを指摘している。
第 4 章「規模拡大と生産力構造」は、第一に水稲単作による規模拡大による規模の
経済、第二に水稲作の単収における規模間格差の動向について、ヒアリング調査の個
票によって検討している。
生産調整が強化されるもとで、全国的には 2008 年を転機として主食用米の割合が
低下し、2003年には56.3%となった。しかし、新潟では青刈り含めた稲の割合は2023
年でも82.8%であり、主食用米も71.9%であり、新潟では稲単作を強めてきた。稲単
作化は、新潟県における水田作経営の規模拡大を支えてきた。
村上市の調査対象は、水稲作付割合が高い特徴がある。さらに、2023 年の経営面積
は2014、2018 年に比べると、規模の大きな経営ほど、拡大面積が大きい。
さちに、規模拡大にともない労働生産性が上昇している。労働生産性の上昇は、農
業機械の効率的利用により裏付けられている。
次に、規模拡大により単収の上昇(2023 年産であることの留意)してきしている。そ
の要因は、大規模層程、品種数が多い特徴がある。
新潟では、非食用米への「転作」を通じて規模拡大が進展した。その背景には、水
稲単作は機械の効率的利用を可能にした。同時に、品種の多数化、栽培管理の集約化
により単収増大(最終章で単収の維持)してきた。しかし、規模拡大にともなう生産
力構造の質的な転換にはいくつかの課題があることを指摘している。
第5 章「水稲の品種構成と農家の販路の状況」は、村上市の水田台帳を用いて大規
模経営体の品種構成と米の販路分析を行い、米価と販路の関連についての分析である。
作付面積と経営面積との関係では、経営規模の拡大にともない品種数も増加する傾向
にある。その要因は昨期幅の拡大と作付用途の多様化である。用途の多様化は、助成
金による主食用米の価格変動のリスクヘッジの側面がある。
米の販路と価格水準については、法人経営など大規模経営体は出荷量が多くなり、
独自販売比率が中心であり、家族経営は農協出荷が主体である。農家直販価格が農協
価格よりも高い。とくに、コシヒカリに比べその他品種のほうが両者の価格差が大き
くなっている。JAの価格設定がコシヒカリ以外は、やや硬直的なためである。
作付品種、用途の多様化が各経営体への経営面での影響が課題となっている。
第 6 章『地域農業・農地保全と多様な経営体・規模拡大と生産性の向上は?-論点
と補足』は、第2~5 章での論点と補足である。
まず、農地保全には大規模層とともに中規模層の分厚い存在が必要なことを第 2、
3 章をもとに再確認した。また、第3 章を補足して、アンケート分析を詳しく行い、
経営規模の意向は、現在の作付規模とともに後継者の有無が重要なことを分析した。
どうじに、農地保全には現状維持層や「規模縮小」層にも支援が必要なことを明らか
にした。つぎに、ヒアリング調査から規模拡大の動きや拡大の意向から規模を拡大し、
可能性があるのは、法人経営を中心とする大規模経営とともに経営主 65 歳未満、後
継者の存在する中小規模層であることを明らかにした。
つぎに、農業センサス分析から世代交代と定年機能による基幹的農業従事者が補充
されていることを明らかにし、村上市では地域農業の視点から大規模層だけではなく
中小規模層にも焦点をあてる必要性を検証した。
地区別に稲作収量と22 年産を参考にすると、地区別に単位収量格差があり、23年
産で極端に低い経営も 22 年産が平均水準になっていることを検証した。とはいえ、
法人経営を中心とする大規模経営は、規模拡大にともない収量が低下していなことを
明らかにした。その要因は、品種数の増加と追肥等の栽培管理である。農協出荷の場
合、コシヒカリは低農薬低化学肥料を基準とし、収量がひくくなり、気象変動に弱い
特性がある。その他、篩い網目等の違いがある。
第 4、5 章で示された規模拡大にともなう品種増と用途の多様化を改めて確認し、
大規模経営での水田活用交付金が大きく、それに依存していることを明らかにした。
次に、ヒアリングの事例から10a 当たり粗収益・費用を分析し、規模による格差が
不明確であることを示した。さらに、農業機械費用も規模による格差が余りなく、大
規模経営の農業機械は補助金依存であり、家族経営は共同化、中古、長期利用による
コスト抑制にある。
2014 年と2022 年を比較すると、粗収益は、戸別所得保証交付金を除くは両年には
余り差がなく、米の販売単価に変化がない。戸別所得保証交付金の廃止は、小作料の
低下に結びついている。
謝辞 地域農業の多面的な研究が可能となったのは、生産者によるヒアリング調査
のご協力のおかげである。同時に、資料や会場の提供、生産者への連絡等について村
上市農業委員会、産業課より多大なご尽力を賜った。生産者と村上市農業委員会には
こころから感謝する。また、(株)新潟クボタ等をはじめJA北越後等には資料の提供
やアドバイス等をいただいた。記して感謝したい。