日本の農業:第265・266集:米政策 過去・現在・未来-歴史に学び将来を展望する-
■発行日:2024(令和6)年6月28日
■対象:日本
■報告:針原 寿朗(元農林水産省農林水産審議官・住友商事株式会社顧問)
■在庫:あり
■ページ数:207p.
■目次:
- 第1章 戦中・戦後の米政策の大まかな流れ
- 第2章 政府全量管理期の政策
- 第3章 政府米主体・民間流通拡大期の政策
- 第4章 民間流通主体・政府間接統制期における政策
- 第5章 国際標準の米政策への移行期
- 第6章 新時代の米政策の模索期への突入
- 第7章 模索が続く新時代の米政策
- 第8章 今後の農業・農村の展望
- 第9章 米産業の発展のために
■「はじめに」より:
本書を記すきっかけは、2023年(令和5年)7月に(一財)農政調査委員会で行った「米産業懇話会」での講演でした。その講演は、「長い間米政策に携わった担当者として政策にかけた思いを体系的に語ってはいかがか」ということで、同会理事長の吉田俊幸先生と渡辺好明評議員に機会を作っていただいたものです。
講演の話をいただいた際には気軽にお受けしましたが、資料作成に取り掛かったとたん、そう簡単な課題ではないということに気付きました。というのは、記憶の内容を確認し証拠立てる資料を探すのにとても苦労すること、特に政府与党間での調整に絡んだ文書を見つけることは公式の記録が残っていないこともあって、非常に難しいことがわかってきたからです。情報社会と言われるようになって久しく世の中に各種情報が溢れている今日ですが、それだけに情報の新陳代謝が早く、古い情報はどこかに埋もれてしまうということでしょうか。
講演の内容は、戦中以降の米政策の歴史、特に一定期間「市場」を封印してきた米の世界に、少しずつのマーケットの重要性、消費者起点の考え方を浸透させてきた政策の歴史を振り返り、そこから米産業の将来あるべき姿を描くといったものでした。マーケット重視、消費者起点の考え方は、他の産業では当たり前すぎて議論にもならない考え方です。しかし、米の世界では未だにこれらを正面から議論しなければならない環境にあるのが現実です。米政策に半生をかけてきた筆者としては、この現実には内心忸怩たる思いを抱かざるを得ませんでした。
その講演の経験から、米政策の歴史について更に掘り下げて整理し、自身の体験を含めて記すことは、長らく米政策に携わってきた筆者の責任ではないかと思うようになりました。
従って、本書は講演の内容を大幅に加筆、修正したものになっています。特に、米政策の歴史を振り返る部分については、将来を展望する上で学ぶべき点をできる限り明らかにすることに留意して記載しました。そのため、本書の副題は、「歴史に学び将来を展望する」とすることとしました。
米政策の歴史のうち直近の約40年間の部分は、筆者が担当者として携わった体験をベースに、記述内容を立証する公表資料を添えながら整理することができました。他方で、体験していない時代の記述については、筆者が米政策の歴史から今でも参考にすべき内容があると考えた出来事を抽出し、「農林行政史」や「食糧管理史」などを参照しつつ記載しました。その際には、単に過去の出来事を紹介する内容とならないよう、筆者がかつて先輩諸氏から直接伺った「生身の話」をできるだけ紹介し、出来るだけヒューマンタッチな内容を含むように努めました。
筆者が入省した当時は、よく先輩諸氏(時によってはかなり年配の先輩)のお誘いを受けて、御自身の仕事上の体験、苦労話、時代背景などについて教えていただいたものでした。お話を伺った際には、「話は面白いけど何となく時代が違うなあ」と感じることも多々ありましたが、その後筆者の責任が重くなるにつれ、先輩諸氏が辿られた道は自身が辿る道でもあることを実感するようになってきました。そのことから、本書においては、時々の政策担当者の思いができるだけ伝わる内容になることを心掛けた次第です。
本書の最後の2章は、今後の農業・農村の将来を展望しつつ米産業の発展のためには何が必要かということを記しました。この部分については、筆者自身が政策作りに携わった経験をベースに、これから農業や食料産業の世界で活躍しようとされる方々や政策作りを担っていかれる方々へのメッセージを込めて記述を行いました。
なお、本書の年の記述に関しては、現在から何年前の出来事かを計算しやすくするために原則として西暦で記載し、それに和暦を添えるようにしました。筆者のような昭和世代の者にとっては「食糧管理法は『昭和17年』に制定された。」と記した方が時代背景を感じることができるかと思いますが、現代の方には『1943年』と記した方がいつ頃の出来事かが理解しやすいと考えた次第です。そのため、文書が少しくどくなっている部分があるかと存じますが、お許し下さい。
本書は研究を専門にされている方の論文ではないので、世の中で「通説」と呼ばれていることとは若干異なる部分もあるかと思いますが、政策担当者の意図したことが多少なりとも伝わり、それによって米産業の明るい未来作りに少しでも貢献できることを願っております。