のびゆく農業:No.1035:スコットランドのクロフター
■原文:
・Committee of Inquiry on Crofting Final Report, Part3, Themes and Key Issues Emerging in the Inquiry
(『クロフティング調査委員会最終報告書』第3部 調査から明らかになった課題と重要事項)
■発行:2017年10月15日
■解題・翻訳:安藤 光義→解題等(PDF)を読む(本編の一部を無料でご覧頂けます)
■対象:スコットランド
■ページ数:44p.
■在庫:あり
■目次:
- 解題…2
- クロフティング調査委員会最終報告書 第3部 調査から明らかになった課題と重要事項…9
- 1.土地と環境を巡る課題…9
- 2.力強い農村経済構築のための課題…19
- 3.購入可能な住宅に関する問題…26
- 4.クロフティングのガバナンスに関する問題(省略)…―
- 5.クロフティングの規制と強制力…31
- 6.若者と新規参入者…42
- 参考文献…44
■解題より:
はじめに
英国といえば「囲い込み」によって成立した資本主義的な大規模農場を思い浮かべるのが一般的だが、スコットランドのハイランド地方及び島嶼部にはクロフターCrofterと呼ばれる小作農が現在でも存在している。クロフターCrofterが保有している小作地Croftは小規模なため農業だけでは生計は成り立たず、漁業に従事したり、手工業を手掛けたり、賃仕事を請け負ったり、様々な仕事をしながら暮らしていた。まさに百姓Jack-of-all-tradesである。クロフターは共有地での放牧Common Grazingも行い、独自のコミュニティCrofting Communityを形成しており、日本の農家や集落を彷彿させる存在である。このクロフターに対する評価とそれが抱えている課題は日本の状況に共通する点が多いと考え、『クロフティング調査委員会最終報告書Committee of Inquiry on Crofting Final Report』から、具体的な問題の状況と分析、提言を記した第3部を訳出して紹介することにした。ただし、クロフティングのガバナンスについては複雑で日本とは状況が大きく異なるので省略した。ほかにも煩雑な注は省略してあることを最初にお断りしておく。
クロフターとは何か―歴史的経緯―
クロフターは歴史的な産物である。1745年、スチュワート朝の復活のために亡命先のフランスからスコットランドに上陸したボニー・プリンス・チャーリーBonnie Prince Charlieが率いるジャコバイトJacobiteの蜂起が発生する。一時はイングランド中部のダービーDerbyまで攻め上がるが、結局、インバネス近郊のカローデンCullodenの戦い(1746年)で惨敗し、反乱は鎮圧される。そして、この蜂起を支えたハイランダーHighlanderと呼ばれるハイランド地方の氏族(クランClan)制社会は解体され、キルト、タータン、バグパイプといったハイランドの習俗は禁止、現地の言葉であるゲール語Gaelicも抑圧されるなど徹底した弾圧を受けることになる。その後、ハイランド地方は「近代化Modernisation」が推進され、ハイランド・クリアランスHighland Clearanceと呼ばれる大規模な住民の追い出しが行われる。住民を立ち退かせた後の土地は牧羊場に転換され、人々はローランドLowland(グラスゴーやエジンバラなどのあるスコットランド南部)やカナダなどの植民地へ移住するか、これまでより条件の悪い土地や海岸沿いの土地に移り住み、荒れ地を切り拓きながら、様々な仕事に従事しながら生計を支えることになったのである。こうした一連の歴史的な経緯を経て、スコットランドのハイランド地方及び島嶼部に形成されたのがクロフターである。
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