現地農業情報-農:No.293:グローカルなむらづくりにおける農村女性の役割 -生活改善における「考える農民」再考-
■発行日:2013年11月20日
■報告:辰己 佳寿子(福岡大学経済学部 教授)
■コメント:齊藤 京子((一社)農山漁村女性・生活活動支援協会 専務理事)
■ページ数:79p.
■在庫:あり
- 構成
- 1.はじめに-今、改めて「生活改善」を問い直す-
- 2.生活改善-事業から運動へ-
- 3.山口県周南市鹿野渋川地区のむらづくり
- 4.おわりに-グローカルなむらづくりにおける「考える農民」-
- 《私のコメント》 齊藤 京子
■【問題の所在】より:
戦後、日本の農山漁村は大きく変化をし、現在、その存続が危ぶまれる状況になっている。明治大学の小田切徳美教授(農業・農村政策論)は、高度経済成長にともなう変化を「人の空洞化」「土地の空洞化」「ムラの空洞化」の連鎖であると整理し、この根底には「誇りの空洞化」があると指摘した。誇りは、不可視的なものであるがゆえに実証性が低いかもしれないが、確実に存在を認識できるものであり、社会的存在としての社会化の過程や個人の主体形成に大きく関連する。社会からの承認なくして誇りは生まれないからである。ゆえに、本研究は「誇り」を醸成する社会的な個人の主体形成に着目した。むらの「誇り」は、高度経済成長に都市優先の価値観に揺らいだ時期もあったかもしれないが、「誇り」は不可視的であるがゆえに、取り戻すことが可能であり、醸成し直して、新しい価値観を形成することも可能である。それをいち早くやり遂げたのが農山漁村に住む女性たちではないか。これこそが本研究の仮説であり、ここに現在の農山漁村の課題を突破する糸口があると考えている。
よって、本研究では、戦後日本の農業政策の一環として実施された生活改善普及事業が、生活改善運動やむらづくりへ展開した過程において、普及事業の理念である「考える農民の育成」が中長期的な視点からみて特に人材育成の面で大きな成果をもたらしたことを実証する。具体的には、山口県の生活改善の事例をとりあげ、女性たちがかつてのイエ・ムラという社会システム維持のための機能を担ってきた状況から、現在のむらの維持において主導的な役割を果たす状況へどのように移行してきたのか、「考える農民」の育成という理念に基づく個人の主体形成がむらづくりとどのように連動してきたのか、そして、国境をこえた「むら」と「むら」とのグローカルな民際交流が個人の主体形成やむらの「誇り」にどのような影響を与えたのかなどを考察する。