講演会報告:三石誠司氏「日本の農業・食品産業とTPP」
講演会では、翻訳した報告書の内容・目次にそい、そのエッセンスや読み方をかいつまんでご紹介いただくところから始まりました。
三石氏は、まず前提として、この報告書があくまでアメリカ側から見た解説・報告書である点を、十分留意しながら読み進めていくべきであると指摘されました。これは本書の解題にも盛り込まれている内容ですが、例えば日本側目線の日本産を守る視点ではなく、日本をどう攻めていくか、攻める側から見たターゲットとしての日本、アメリカ側が日本をどう見ているかという報告書であるという点を念頭に置きながら、その内容を読み込んでいく必要があるとおっしゃいます。そこで重要になってくることが、この報告書で明確に書かれてはいない、しかしアメリカが本当に伝えたいであろうメッセージを汲み取る必要性だそうです。
本書を丁寧に読んでいくと、アメリカ側は日本の農業の課題・問題点を認識しつつも、日本農業・農村が持つ強み、長所もまた良く把握し、最大限の敬意を払ってこの報告書を作成したことが、アメリカ側のメッセージとしてそこかしこに示されていると三石氏は指摘します。例えば、本書のp.40以降では、日本の場合、農協を中心としたネットワークが強力で非常に良く資本化された基盤を持つこと、歴史的にもかつて日本の農家が北米や南米で農場を開始した歴史と長い伝統があること、さらにそうした国々では協同組合的農業が日本発のものとして継承されていることなどが紹介されています。供給制限を無視した日本政府の仮定は非現実的であり(p.41-42)、むしろ「日本の農家は輸出先の国々の安全基準に合致するか上回る能力を保持している」(p.40)から、これを今後もきちんと実現できば日本はその力を十二分に発揮できるというアメリカ側のメッセージ、エールであるのだと三石氏は強調されました。