「意見ひろば」:発展する農業法人に思う
3 自分で作ったものは自分で売ろう―6次産業化への第一歩―
次に、A法人の企業としてのコンセプトについて触れてみたい。社長は、3つのコンセプトを紹介してくれた。一つは、有畜複合経営による有機リサイクル農業の実践、二つ目は、自分で作ったものを自分で販売できる環境づくり、三つ目は、地域農業の振興の核となるような経営体である。いずれも企業理念の実現に向けた、他の法人経営にも見習ってもらいたいと思うものであるが、ここでは二つ目の自分で作ったものを自分で販売できる環境づくりに注目してみたい。
社長は、まだ食管法が存在していた時代に、父親と「ヤミ米」を地元の米屋に売りに行ったが、産地を知った米屋には米の袋さえ開けてもらえず、大変悔しい思いをしたという。有畜農業で手塩にかけて生産したコメの顔さえ見てもらえなかった悔しさは、もの作りの経験のある人なら誰でも分かるだろうし、そうした悔しい想いのある農家は結構多いと思う。
その悔しさが自分で販売できる環境づくりを目指すことに結びついているという。しかし、それは、単に自分の作ったものをやみ雲に売るということではない。最近でこそ少なくなったが、自分たちの作ったものがなんで売れないのか、何でこんなに安いのかと嘆く農家の声をよく聞いた。物が豊富になるとその商品を買う・買わないの選択権は消費者に移る。物を作って売ろうとする人は、そのことを十分わきまえておく必要がある。社長も、客が何を望んでいるのか、その要望に応えるものを作って提供することが重要だと強調する。A法人は、アンテナショップを作ったが、初めはアンテナショップで誰が何をやるのか他人事のように考えていたというが、客との直接の接触を通して客の要望をくみ取れるようになった今では商売の幅を広げる貴重な起点になっているという。
昨今「6次産業化」が流行語になっているが、自分で作ったものを自分で売ることも6次産業化であり、自分のつくった農産物にどのような付加価値を付けて売り込むか、ブランド化、加工等々状況に応じ様々なことが考えられる。いずれも6次産業化であるが、社長に言わせれば、6次産業化を目指すのではなく、農産物の売り方を考えればその結果が6次産業になっているという。もっともな話である。
それに関連して、社長の話の中で快哉を叫んだのは、農家が食べて、その農産物、品種の味が出ているものを客に提供する、それが商品の差別化であると思うという言葉だ。筆者はかつて某県で仕事をさせてもらっていた時、自分の作ったものには自信をもってもらいたい、自分が食べておいしくない物は出荷しないでもらいたいと、よく農家の方々に話したことを思い出した。農家以外の人へのお中元、お歳暮には自分達で作った農産物を使おうと訴えたのもその時である。多くの農家の方々は、それぞれにそれなりの誇りをもって農産物を作っているが、多くは謙虚さが先に立って農産物を贈り物として使おうとしない。自分の農産物にもっと誇りをもって、何が素晴らしいのか、その素晴らしい点を主張してもよいのではないかと思う。