「意見ひろば」:「人・農地プラン」の現代性と作成初年度における実態
―山形県T市での実態調査から―
4.人・農地プラン作成初年度の評価
TPPという外圧にさらされる中で、人・農地プランは「農業をやめる人」を特定するという点で農政が一線を超えた、構造政策の歴史上画期的な「プラン」であったといえる。しかし、その意気込みとは裏腹に、市町村合併に伴う自治体農政の脆弱化がその作成に影を落としているというのが、全国的に見たらかなり速いペースで進んでいるT市の事例から見た初年度の実態であった。
また、作成された人・農地プランは農地集積効果という点では期待された効果を発揮するものではないことも予想された。そもそも「農業をやめる人」を特定するというその手法自体に無理があると(現場の農村への衝撃が強すぎ、貸付需要の先取り以上の効果にはならない)筆者は考えているが、「プラン」を作成すれば構造が動くというわけではないことが今回も証明されつつある。
市町村合併により、農政推進上の自治体農政の負担はこれまで以上に重くなっている。もし今回も、補助金を受給するために「プラン」を作成するといういつものパターンに収斂するなら、「プラン農政」という手法自体を見直す契機になるのかもしれない。
参考文献
小田切徳美(2009):『農山村再生―「限界集落」問題を超えて―』(岩波ブックレット768)、岩波書店.
農林水産省(2012):『平成24年版 食料・農業・農村白書』.
付記
本調査では、T市役所の担当者の方にお忙しい中対応していただいた。また、APCの佐藤奨平研究員、日本大学短期大学部の田崎義浩助教の協力を得た。お世話になった方々にこの場を借りてお礼申し上げる。なお、本稿は科学研究費補助金特別研究員奨励費(11J08191)の助成を受けた研究成果である。