理事長の部屋:「進む農協離れ―組織優先やめ「売る」に徹せよ」
なぜ農協の販売・購買において全農を中心とした統制システムが維持されたかといえば、農協が補助金の窓口となるなど行政下請け機関としての性格と政治・補助金依存体質を保持してきたためである。
政治と行政が、指導機関である全国農業協同組合中央会(全中)を頂点とした農協組織を利用し、農協も行政と政治を利用し、両者が相互に依存してきた。各地の単協は全農はじめ各事業の全国組織の下請け、出先機関としての性格を持ってきた。
政府の成長戦略における農協改革では全中、全農の見直しが一つの焦点となった。全国組織を中心とした運営を問題視したものだが、実際のところは政府、行政もこの体質に依存してきたのである。
典型は70年以来、続いてきたコメの生産調整である。コメの過剰に対して、転作補助金とコメの作付け制限によって価格維持を続けてきた。生産調整の推進を担ったのは農協組織であり、コメでは特に全員委託による販売が政策的にも維持されてきた。同時に、他の品目でも全国組織中心の販売システムが温存された。
異端の農協
単協のなかには全農委託以外に独自の販路を開拓し、高い生産者手取りを実現しているところもある。
富里市農協(千葉)はイオン、セブングループはじめ量販店や加工業者に幅広い契約先を持つ。事前に販売する価格や数量、規格を取り決め、農家が取引先を選択する。加工用の場合には、農家で積み込んだコンテナのまま流通する。通常の市場出荷の場合は、農協の選別場などで大きさの規格に合わせて袋詰めし、段ボールに詰めるが、その必要はない。スーパーの産地コーナーにおける販売では流通経費は20%に過ぎない。
契約販売では、はが野農協(栃木)も挙げられる。各農家が行っていたイチゴのパック詰めを一手に担うセンターを設け、小型パックや特売など量販店のニーズに沿って出荷する。
直売所は流通経費が削減できるため取り組む農協は多いが、大分大山町農協は、地元だけでなく福岡市の都市部に直売所を展開する。
農協が加工を手掛ける場合、買い取り価格がそのまま生産者手取りとなる。三ヶ日町農協(静岡)は市場規格外のみかんをペーストに加工し、食品業者へ卸す。あしきた農協(熊本)はデコポンゼリーの加工を拡大し、ネットで直販するほか、食品メーカーのOEM(相手先ブランドによる受託生産)も行う。
コメにおいても全農を通じた販売の割合は年々低下し、12年には農協出荷のうち28%は単協による独自販売が占める。秋田おぼこ、山形おきたま農協をはじめ、消費者への直接販売や商社、小売店との契約販売、さらには輸出を手掛ける単協もある。
特に注目されるのは越前たけふ農協(福井)である。12年からコメを全量、独自販売し、翌年には販売・購買などの経済事業を100%子会社のコープたけふに譲渡した。日本の農協は、業務や品目で分かれるEUや米国と異なり、金融から販売、購買まですべての事業を担う総合農協である。金融機関とみなされるため、自己資本比率などの制約が金融事業以外にも課され、販売・購買関連でリスクをともなう新たな事業展開が困難だからである。
例にあげた単協の多くは生産資材購買でも相見積もりなどによる価格抑制を実現している。しかし、農協の組織内部では異端であり例外的な存在である。