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理事長の部屋:米の生産調整50年-米産業・水田農業の現在 (米産業に未来はあるか案内2)

前回に続いて「米産業に未来はあるか」の案内2です。是非,講読をお願いします

 2021(令和3)年は、米の生産調整が本格的に開始された1971年から50年目である。日本の米産業はゆでガエル状態にある。多額な助成金に誘導された「生産抑制(調整)」と価格維持が,形式と手段が変化したが,50年間(半世紀)の基本的な政策目標となった。日本の米の生産調整の特徴は,多額な助成金により水田での麦,大豆,飼料用米を誘導することによって,主食用米の生産を抑制し,価格を維持する政策である。つまり,納税者負担と消費者負担という二重の負担を国民に強いる政策である。

50年間の米・水田農業の推移をみると,需要量,水田及び稲の作付面積,及び米の粗生産額等が大幅に減少している。まず,米の需要量は,生産調整開始時1971年の1186万tから2019年には798万tへ388万t(約400万t),約1/3の減である。今後も主食用米の需要量は加速的に減少すると予測される。

さらに,水田面積は1971年の320haから2年産187万haへ,133万ha,42%減である。187万haのうち米が158万ha(主食用137万),麦が11万ha,大豆18万haである。

米の粗生産額は,昭和59年の3.93兆円をピークに平成元年には44%の1.74億円に減少した。

一方,米の生産抑制のための転作作物に対する助成金は,1971年の1700億円から2022年には倍増の3400億円へ増加した。

米の需要,作付面積の減少とともに単位収量向上の停滞が見落とされている課題である。我が国の単位収量は,表のように,69年の450㎏(世界第3位)から18年には530㎏(15位)であり,19%増とどまっており,もっとも伸び率の低い国である。その結果,単収の順位を3位から15位へ落とした。なお,オーストラリア570㎏(1位)から813㎏(1位)へ43%増,アメリカ399㎏(6位)から671㎏(3位)68%増,イタリア374㎏から538㎏へ44%増,韓国349㎏から567㎏へ65%増である。中国は78年の320㎏から555㎏へ1.73倍である。(「規制と市場原理の中間的政策」(『米産業に未来はあるか』農政調査委員会)

表にはないが,輸出国であるインドは80年の124㎏から287㎏へ2.31倍,ベトナムは80年の222㎏から462㎏へ2.08倍である。中国は78年の320㎏から555㎏へ1.73倍である。日本のみが,単収において世界の趨勢がはずれている。

単収は、多くの農産物の競争力の土台であり,生産者にとって単位面積当たりの収量は、重要な経営指標の一つである。ところが,生産調整開始以来,米の単収向上がタブーとなり,、産業として成り立つ基盤を失い国際競争力も無くしてしまった。

生産調整以降,日本では意識的に高品質を追及してきたであり、単なる物的単収ではなく、商品価値としては、この間の努力で高まったという意見がある。米の輸出開始時において,日本米は高品質なので,高価格でも需要があるという信仰に結びついた。海外での米消費は業務用が大部分であり,「品質による拡大からミドルレンジ層(価格対応による拡大)へ市場を拡げることが不可欠である」(高橋元「海外現地精米で需要拡大」『米産業に未来はあるか』)。そのためには,単位面積当たりの収量が高い品種が必要とされる。

この視点からすれば、減反実施期間中の50年、単収を犠牲にしても品質を追求したが、それで、商品価値としての日本米の国際競争力が向上した、という訳ではない。(前掲荒幡論文)、と言わざるを得ない。

さらに,荒幡氏は、「奨励品種決定調査の結果を、「試験場の技術レベルでの最適栽培がなされた場合の単収」と解釈して、データをプロットすると、ここでも減反開始後の単収停滞は明白である。単収停滞は、農家レベルだけではなく、試験場技術のレベルでも起こったのである」と指摘している。

(注)「多収品種の栽培にあたって」(農水省平成3年)によると,「多収品種は令和2年産水稲平年収量(535㎏)に比べ,大幅に高い収量(概ね700~800㎏)が期待される」としている。その収量は研究期間における実証単収の一例」である。つまり,実証単収でもオーストラリアやエジプトの平均単収よりも低い水準である。飼料用米でもアメリカの平均単収671㎏以上は1割程度である。

米の単収の推移(1969年,2018年,㎏2/10a,%)

 

出典荒幡克巳「規制と市場原理の中間的政策」(『米産業に未来はあるか』農政調査委員会)FAO統計,3ケ年の移動平均,10a当玄米換算値

以上のように,生産調整開始から50年,多額な助成金及び生産抑制と価格維持により,表面的には,年々の米の需給を均衡させ,生産者の経営は,維持されてきた。しかし,米需要は年々減少し,水田面積も減少し,米の粗生産額が減少している。さらに,国際的な水準に比べると単収の伸びが停滞し,日本米の国際競争力を失ったといえる。日本の米産業・水田農業は,「ゆでガエル」状態にあり,第二の「生糸」の途が危惧される。

ところが,国による米の生産数量の個人配分が廃止,つまり生産調整が形式的に廃止されたが,多額な助成金による主食用米の生産抑制と価格維持政策が継続,強化された。

平成30(2018)年産以降の米の需給調整も、県や各地区の農業再生協議会での「目安」の策定と飼料用米等への助成金による作付誘導及び「農水省によるキャラバンの派遣巡回」という一種の「運動」によって推進された。しかし、生産抑制と価格維持という「市場歪曲型政策」により、米価はそれまでの趨勢から反転して上昇に転じた。同時に、主食用米の需要量は、減少幅が拡大し、令和元/2年の主食用米の需要量は714万tであり、平成27/26年の783万tと比べ6年間で69万tの減である。

(注)前掲荒幡論文では「戸別所得保障15000円が開始された際の60㎏当たりの価格押し下げ効果1018円は,廃止された際には,逆方向の価格浮上分となる」と指摘している。

需給ギャプの拡大に直面して,令和3年産の対策は、多額な財政負担と「運動」の強化を通じて、「生産調整」が実質的に強化された。財政面では、水田フル活用予算は過去最大規模の3400億円(水田活用の直接支払交付金+前倒し支援等)であり、令和2年産と比べ350億円増である。さらに、道県に対しても助成金の上乗せを「要望」している。

同時に,キャラバンに加え、道県別「水田における需要に応じた生産・販売の推進に関する意見交換会」が実施され、「運動」がより強化された。さらに、自主的な「目安」の達成が事実上の「義務化」され、「目安」が未達成の農業再生協議会に対して、水田活用の直接支払交付金を一部減額するというペナルティが導入されている。

一方,飼料用米の作付面積は多額な助成金にもかかわらず平成29年産の9.2万haから令和2年産には7.1万haへ2.1万ha減となった。一つの要因は、「米価が低水準であったときには、飼料用米の生産に魅力があったが、現在のように高止まりしている状況下では飼料用米の魅力が相対的に低くなっている」(「米をめぐる課題への対応等について」の資料、農水省令和2年12月)である。この指摘は、飼料用米を中心とした対策の矛盾点を表現している。

現在の米の需給対策の特徴は「(飼料用米に誘導することによって)主食用米の価格を高く維持する政策に補助金を使うという納税者負担と消費者負担という二重の負担を国民に強いる政策」であり、したがって、「持続可能であると思えない」(本間正義『農業と経済』2015年9月)と当初より指摘されていた。つまり,「飼料用米にシフトすればする程、財政負担が増える」構造なのである。

 今後,需要減の加速化,生産抑制,価格維持,飼料用米の拡大,財政負担の増加という消費者負担と納税者負担との二重の負担が強いる負のスパイラルが継続する。しかし,今後継続できるであろうか?

「米農業・産業」の未来を展望し、戦略を構築するには、で指摘した通り「過去と現在」をみつめ、総括し,「高価格で所得を支える『守り』から世界を視野に入れた『攻め』(米需要の開拓・拡大)へ転換させることと及び同時に、セーフティネットの構築が必要である」(拙稿『農業と経済』2015年9月)。「 同時に,コスト削減を図り,米と日本酒等の米加工品及び健康機能食品の輸出など新たな需要拡大を図ることである。とくに,輸出は,┄過剰時には有効な市場隔離策である」。また,「政策こそが,┄大規模経営にとっての最大の経営リスクであり,構造変動の阻害要因である」(迷走する米政策「改革」の推移と政策課題2016年3月『土地と農業』)。

 つまり「価格は市場で,所得は経営政策で」あり,「値段がさがる商品には未来があり,価格を高くする商品には将来がない」(渡辺好明 おわりに)である。 (注)「需給を反映する市場による指標価格の形成と担い手の経営悪化と脱落を防ぐセーフティネット(直接支払や経営安定対策など)を構築することである」(渡辺好明「コメ政策の行方を展望すれば」『米の流通、取引をめぐる新たな動き(続)日本農業湯研究所2015年6月』

次回は主食用米消費減の加速化について述べる。

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