理事長の部屋:米食習慣の希薄化と米離れによる米消費減の加速化-とくに高齢者
前回に続いて「米産業に未来はあるか」の案内3
是非,講読をお願いします
50歳代以上での米離れと米食の習慣の希薄化
農水省資料によると,元/2年の主食用米の需要量は714万tであり,27/26年の783万tと比べ6年間で69万tの減,平成8/9年に比べると232万t約25%の減である。27/26年までは価格変動の影響を受け増減の繰り返し,年間8万t減少していたが,27/26年以降,年間10万t以上,直線的に減少している。今後も,人口減,高齢化の進展及び食生活の変化により主食用米需要が加速的に減少すると予想される(「産地銘柄中心からブレンド米の時代へ」木村良)。
その要因は,食の多様化,洋食化にともなう米離れや米食習慣の希薄化がとくに高齢者で進展していることである。
まず,家計費調査のデータからコーホート分析による2030年の消費金額を予測すると「穀類全体は2016から2030年で5.5%の減少なのに対し,パン(-1.8%),麺類(-3.9%),米(-17.8%)となっている(「米消費の実情と需要創造の道」折笠俊輔)。
博報堂の「生活定点調査」によると,「お米を1日1回以上食べないと気がすまない」と回答した消費者の割合は,92年の71.4%から20年の42.8%へ大幅に減少している。つまり,「消費者の意識としても米の愛着が減少しつつある」(折笠論文)。
さらに,米食を食べる回数が「1日1回以下」が39%であり,年齢別にみると,20代以下が36%,30代が30%,40代が41%,50代が43%,60代以上が40%である。40代以上での「1日1回以下」が半数近くなっている(日本農業新聞調査,2021年8月7日,日本農業新聞)。二つの調査は,消費者とくに50代以上での米食習慣が希薄化し,米離れが進展していることを示している。
米消費の減少は,60歳以上で顕著
次ぎに,5年前と比べた米消費の増減をみると,減少が28%で増加の14%を2倍となっている。男性では,「減少」が「増加」をいずれの年齢層を上回っており,60歳以上では減少が42%であり,49歳以下の2倍以上であり,増加は4%であり,49歳以下の1/4以下である。
米消費の増減の動き(令和2年3月,5年前との比較)
農水省「米の消費動向に関する調査」令和2年3月
女性では,50~59歳では「減少」が41%,「増加」が8%,60歳以上では「減少」が44%,「増加」が5%であり,「減少」が「増加」が大幅に上回っている。高年齢層では米消費の減少が半数を占めている。
国民栄養調査による1日1人当たり米類の摂取量の推移(18年/1年)は,60代が24%減,70代が20%減であり,20代~50代の減少率を大きく上回っている。さらに,「08年頃を境に,20~30代世代と中高年代世代の米摂取量は逆転し┄18年時点になると,最小の70歳以上の摂取量は20代に比べると,16%少なく,10代後半とはその約2/3」(青柳斉『米食の変容と展望』筑波書房2021年)である。16年以降,1日1人当たり米の摂取量は,40歳代以上が高年齢なる程小さくなっている。
図は前掲青柳氏の著書より引用
米消費量減少の要因-副食の増と食べる量の減少
米消費量が減少した主要な要因は「副菜,おかずの増,主食を減らした」の29%,「食べる量が減らした」の28%である。特に,40歳以上では,二つの要因がさらに高く,60歳以上では7割となっている。次いで,「ご飯よりもパンや麺が味がよい」及び「手間がかかる」となっている。
消費量が減った理由
農水省前掲調査
今後の消費量について,「今のままでよい・もう充分に食べている」が69%,「もっと食べたいと思う」が19%である。さらに,「今のままでよい・もう充分に食べている」は,40歳以上が7割以上,60歳以上が8割である。
「今のままで良い,充分に食べている」の割合
前掲農水省資料
以上のように,近年における米消費量の加速的減少は,高年齢層の消費の大幅な減と米離れが大きな要因となっている。したがって,人口減と高齢化の進展により米消費減は新たな構造的な要因によって,加速化する。しかも,消費が増える要因が現状ではないのである。
農水省調査では,消費量が減少した要因のなかで「ご飯よりもパンや麺は味が良い」が17%を占めており,前掲の折笠氏のコーホート分析の予測では,パン,麺類が微減であるが米のみが大幅減が予測されている。その要因は,前掲日本農業新聞調査が示している。と「麺,パンを選ぶ理由」は,「好き,おいしいから」が47%であり,とくに,50代以上の女性が58%を占めている。一部の高齢者はパンや麺の食事を好み習慣化している。さらに,「米が続くと飽きるから」が28%,「パンや麺は料理や商品の種類が豊富」が16%と続いている。「食の多様化で種類が豊富なパンや麺の料理に消費者が魅力を感じている」。つまり,「米料理のマンネリ化」の克服が課題となっている。
(注)「コメの代わりにパンや麺が伸びている理由を突き詰めていけば,それに対抗する商品を作れる可能性がある」(折笠論文)
家庭食の購入基準-価格及び利便性,配達
ところで,家庭食の購入先は,第一位がスーパー(農水省調査生協を含む 63.9%,米穀機構スーパー49.8%,生協7.0%,いずもれ20年調査)であり,第二位が親戚から有償・無償譲渡(農水省調査17.5%,米穀機構調査20.2%)である。
主要な購入先であるスーパーでの消費者の購入行動についての折笠氏の分析によると,。多くの消費者は,スーパーの棚に並んだ30種類程度のコメの中から,購入価格は1㎏当たり平均350円前後である。特売比率が46%なので,半数の消費者は,産地や銘柄よりも価格を優先して購入している。
POSデータによる消費者購入行動は,来店1000人あたり10.4点で,煎餅等の米菓の76.77と比べ,購買サイクルが長い。売れ筋が5㎏,平均売価が1764円(㎏単価352円)である。販売品数は,31.2,特売商品で購入された割合は46.4%,インスタントコーヒの47.8%と同じである。(折笠論文)。
さらに,「米を買いたくなるスーパーの売場」は,第一位が「安い」が49.0%,第2位が「配達対応など持ち帰りやすい」が30.7%(日本農業新聞)である。したがって,スーバーでの消費者の米の購入は価格優先であり,ついで利便性,配達となっている。
スーパーだけではなく,米の購入時の重視点は価格が74.4%(平成30年度米穀機構調査)であり,米は価格優先の商品となっている。
さらに,購入価格に対する評価をみると,「ちょうど良い」が45%であるが,「高い」の30%が,「安い」の5%を大きく上回っている。しかも,40歳以上では「高い」が3割を超えている。今後の購入価格は,現在の購入価格もしくは安い価格を志向している(前掲農水省調査)。
なお,購入先が5年間(14年から20年)で増加したのがインターネット(農水省調査9.6%でから12.4%へ)及びふるさと納税(1.9%から5.4%)及びディスカウント(米穀機構調査6.5から9.6%)である。
インターネット及びふるさと納税の購入を選択した理由は,購入便利,配達と価格メリット及び「品種や品揃えが増えた」である。
さらに,米穀機構調査によると,購入単価(㎏当たり,元年度平均)は,スーパーが399円に対し,ディスカウント及び「生産者から直接購入」の購入単価は,323円,及び373円であり,購入先のなかで,最も低い価格水準である。また,購入価格帯は1700円未満が3割,2000円未満が5割,「生産者から」は1700円未満が5割,ディスカウントは2000円未満が3/4を占めている(30年度協同組合連携機構調査)。
以上のように,消費者の米の購入における選択基準は,価格が第一であり,最近では利便性や配達が基準の一つとなった。もちろん,品種,栽培方法,こだわりも重視する消費者も存在する。
業務用米の需要は価格と品質と価格の安定
ところで,米の消費は家庭食と中食・外食との二つに区分される。「世帯構成の変化(単身世帯の増加)、女性の社会進出(共働き世帯の増加)等の社会構造の変化により、食の簡便化志向が強まっており、米を家庭で炊飯する割合が年々低下する一方で、中食・外食の占める割合は増加している。」(「米をめぐる関係資料」農水省平成29年11月)である。
米消費における外食・中食向けの業務用米の割合は、平成9年の18.9%から平成28年には、31.1%へ,元年には32.7%へ増加した。しかし,24年度以降,家庭食と中・外食消費数量割合及び販売業者の中食・外食業者への販売割合が横ばいに推移している。同時に,玄米販売数量4000t以上の販売業者が中食・外食向けの販売数量割合も,37~39%で推移している。
ところで,精米消費量の約1/3を占める外食・中食向けの業務用の需要も多収品種,低価格帯が中心である。しかも、「主食用米全体の需要が満たされているが、中食・外食等の実需者が求める銘柄や価格帯と実際に生産される銘柄の間にミスマッチ」(「米をめぐる関係資料」農水省平成29年11月)が招じている。
外食・中食業者への販売数量割合(農水省資料)
玄米販売数量4000t以上の販売業者の調査
表のように,玄米販売数量4000t以上の販売業者が外食・中食業者への販売数量をみると,全銘柄平均価格未満が61~78%を占めている。
また,29年産の中食・外食への販売数量割合と全体の検査数量とを比較すると,1万5千円未満の割合は,検査数量の60%に対して中食・外食向けが72%であり,12ポイントも上回っている。生産数量と業務用需要との間でのミスマッチが生じている。
29年産の中食・外食への販売数量割合と全体の検査数量。
低価格帯の安定供給つまりミスマッチアを解消するために,卸等が様々な取り組みを行っている。たとえば,「中食・外食事業者との5年間の長期契約取引」「卸売業者と産地との契約栽培」「生産法人による多収品種の生産」等が例示されている(農水省「米に関する資料」令和3年)。「米産業に未来はあるか」でも,ヤマタネ,神明が生産者との連携による多収品種の契約栽培を展開している。
外食業者の一部には,SB米を使用する例が生まれている。
大手外食チェーン吉野屋は,「北海道米きららを中心に国産米だったが現在は国産米及び国産米とカリフォルニア米とのブレンドを使用している。┄以前より定食が増加しているので定食には白米で食べるため消費者の味覚が敏感なための米の配合をしている。カリフォルニア米のメリットは取引が安定し,ブレンドの食味が安定している。外国産米の価格も上昇しており,以前ほど内外価格差がない。29年5月国内の9割の店舗で国産米とカリフォルニア米とのブレンドを使用している。┄
グループ全体で3万tの米を使用し,半分以上が吉野屋向け,年間を通じて品質安定のためブレンド米を使用している。」(商経アドバイス令和3-5-27)。
以上のように,中食・外食向けの米には,価格及び安定供給・品質の安定が強く求められている。
主食用米をめぐる今後の課題
以上のように,主食用米は人口減,高齢化,食生活の変化により農水省が示した予想よりも加速的に減少する(木村良氏)。大きな要因は,米食習慣の希薄化と米離れの進展であり,とくに,中高年齢層において著しい。すでに,1人当たり米消費量は,60歳以上での減少率がもっとも高く,消費量も最低である。米消費減の動きが従来型とは異なる新たな段階に突入した。
同時に,多くの消費者の米購買の重点が「価格」であり,スーパーでの特売商品や低価格の産地直送,ディスカウント店での販売が伸びている。
その結果,「大きな縮小が見込まれるマーケットで価格競争が行われて行くことで,コメの生産者,流通業者,販売事業者といったステークホルダー全体が疲弊していくことになる。」(折笠論文)この状況を脱却するためには,必要な一つは┄需要拡大,需要喚起によって少しでもマーケットの縮小をくい止めること,新たな需要を創造することである」。具体的には「パンや麺が伸びている理由を突き詰める┄それに対抗する商品を作れる可能性がある」。そのほか,パックご飯や冷凍米飯の拡大を含めた需要の変化に適応する形で,業界全体のイノベーションが求められる。
とはいえ,主食用価格維持政策の転換が求められる。パンや麺類及びパスタへの米からの転換が高齢者を中心に進展している。「麺,パンを選ぶ理由」は,「好き,おいしいから」や「パンや麺は料理や商品の種類が豊富」等であった。同時に,パンや麺類及びパスタが価格面での競争力があり,その克服が課題となっている。
(注)「スーパーの米売場は┄30年前から代わり映えしない。一方,ベーカリーでは新しいパンが登場している。マーケティングにより消費者に新しい提案してきた。だから,パンの売上がのびてきた」(「米卸からアグリフードパリチェーンへ」藤尾益雄)
さらに,EUとのEPAによりパスタは無関税となり,「ゆでパスタはご飯の1/3」であり,無関税となれば1/4となる。また,日米のTAG(物品貿易協定)交渉の結果,マークアップが45%引き下げられる結果,米と麦製品との価格差が拡大した。そのことも一つの要因で米消費の減退を招いている。(福田耕作「高値維持は中食・外食に打撃」)
近年,高齢化とともに18年の相対的貧困率は15.4%,子供貧困率が13.5%であり,300万円未満の32.6%である。低所得者層を支える米価格の在り方も課題となっている。
「世帯年収300万円未満,あるいはコロナ禍で失業した人,収入が減った人などは,┄5㎏1200~1400円程度である。その価格帯で味は悪くない売れる米をいかにつくるのか,卸が問われている」(「産地銘柄中心からブレンド米の時代へ」木村良,前述のようにこの価格帯はディスカウトや産地直売の平均価格である)。
「1990年前後にECが支持価格を下げる代わりに財源で補てんする方向に切り換えた。┄消費者負担と財政負担の割合を変えることで,エンゲル係数の高い,低所得者層を支えることになる。┄米国でもすでにその視点は入っている」(座談会での生源寺氏の発言)。
この視点からも生産制限と価格維持政策の転換及び米産業のイノベーションが求められている。
次回は,パックご飯,冷凍米飯,米粉等の新規需要の創造について「米産業に未来はあるか」からの紹介及び論点を提示する。