農政調査委員会は農業、農村の現場から提言します - Since 1962

理事長の部屋:米産業のイノベーションによる需要創造-加工米飯,米粉

「米産業に未来はあるか」の紹介4 是非講読してください。

主食用米は,大きな縮小が見込まれるなかで,米マーケットの縮小をくいとめるために「パックご飯や冷凍米飯の拡大を含めた需要の変化に適応する形で,業界全体のイノベーションが求められる」(折笠氏)。

同時に,主食用価格維持政策の転換も求められる。パンや麺類及びパスタへの米からの転換が高齢者を中心に進展している。「麺,パンを選ぶ理由」は,「好き,おいしいから」や「パンや麺は料理や商品の種類が豊富」等であった。同時に,パンや麺類及びパスタが価格面での競争力があり,その克服が課題となっている。

同時に,「(精米,玄米を販売するままでは)卸には未来がない。メーカーにならなければならない」(「米卸からアグリフードパリチェーンへ」藤尾益雄)のである。

両氏が指摘しているのは,米需要の新規創造が必要である。需要創造のポイントは,精米から加工米飯,米粉,冷凍米飯等である。

加工米飯と米粉は,主食用米が減少しているなかで,量は少ないが需要を拡大しており,加工品メーカー,量販店との連携による新たな商品開発が進展している。

米部門の成長産業、インスタントラーメンの米加工品-無菌包装米飯

無菌包装米飯や冷凍米飯等の加工米飯は,主食用精米が年々,減少するなかで,増加傾向にある。加工米飯の合計は27年の34万9千tから元年には114%の39万9千tであり,コロナ禍の影響があった2年も1.5%増である。

加工米飯の生産量の推移(t,%)農水省資料

無菌包装米飯と冷凍米飯が元年では,全体の90.5%を占めており,元年/27年の伸び率は,無菌包装米飯が34%,冷凍米飯が4%である。2年では,無菌包装米飯のみが,8.3%増であり,他の加工米飯はコロナ禍の影響を受け微減である。無菌包装米飯と冷凍米飯は,加工米飯の大宗を占めているが,無菌包装米飯の伸びが著しく,両者の地位が,近年では逆転している。

「米産業に未来はあるか」では,「「消費者に欲しいものを」とパック餅,米飯」(佐藤功氏)で,無菌包装米飯には多様な消費者ニーズがあると指摘している。さらに,パックご飯は,年間約12億食,1億2千万人なので,平均1人当たり10食,1%のシェアにとどまっている。今後,10~20%のシェアが期待され,米加工食品事業の中で,パックご飯は最大の成長産業となると指摘されている。

インスタントラーメンは食品加工の中で, 20世紀最大の発明といわれているが,パックご飯も20世紀最大の発明商品である(「挑戦続ける大潟村」涌井徹)。

さらに,米売場が小さくなるなかで,大きくなってきたのはパックご飯の売場だ。パックご飯の売場をみれば,米に可能性がある(「米卸からアグリフードバリューチェーンへ」藤尾氏)。以上のように,パックご飯は,実態的にも,統計的にも,米部門の成長産業なのである。

サトウ食品の包装米飯は,「厚釜直火炊き」がセールスポイントであり,新潟コシヒカリをはじめとするブランド米(25種類)及び3品目の低タンパク米,2品目の大麦ごはん,発芽玄米の31種を販売している。さとう食品は,高品質が売り物であるとともに多様な消費者ニーズ及び低タンパク米,大麦ごはん等の健康志向にも対応している。さとう食品の2021年4月期通期決算は,売上高・利益とも過去最高であり,売上高469億4400万円で前期比4%増である。包装米飯は10期連続増加の253億9700万円,であり,8.0%増である。(なお,包装餅 3期連続215億2700万円,0.8%増,商経アドバイス平成3-3—17)。コロナ禍においても,包装米飯は,大幅な売上増を実現している。

さらに,さとう食品は「包装米飯事業の発展」と「海外市場の開拓」という視点からJA加美よつばラドファの約5%の株式を取得した(全農は同社の全株式の約70%を取得している)。

神明グループの包装米飯メーカー「ウーケ」は,「神明現社長就任時「卸に未来がない」「メーカーにならなければならない,パックご飯をつくる」ことで,2009年より富山県入善町にて設立された。

令和2年度における無菌包装米飯は,元年の1億0004万からが10%増の1億1000万食であり,輸出は約37万5000食である。なお,28年度の実績が7818万食であり,40%増である。なお,無菌包装米飯の輸出は,29年度が29万5632食 30年度が26万5808食,元年が30万2916食であり,さらに,2年度37万4788食(11月現在である(商経アドバイス3-4-8)。

2010年に、国際認証規格であるSQF認証を包装米飯業界で初めて取得した。また,水百選に選ばれている水やクリーンスチームを利用した短時間高温殺菌方法により、うまみを逃さない上質な包装米飯に仕上げている。

包装米飯では,「手軽さに加え,お米に機能をもたせる」ことに留意している。たとえば,,ファンケル発芽米やカロリーカットした「マンナンごはん」(大塚食品連携)さらにタニタ食堂の金芽米ごはん,金芽ロウカット玄米ごはん(東洋ライス)等である。

大潟村アキタコマチ生産者協会もパックご飯の需要拡大を視野に共同で工場を建設した。大潟村アキタコマチ生産者協会は,米の消費拡大のため,付加価値が必要と考え,発芽玄米,グルテンフリー,アレルギー対応,甘酒等の商品を開発し,総合的な米販売により,1万tの販売を実現した。さらなる米の消費拡大及び輸出のための武器として,パックご飯事業に注目した。パックご飯事業には多額な投資が必要なので,他の企業や銀行との共同出資とした。

以上のように,パックご飯事業には,大潟村アキタコマチ生産者協会の他,JA加美よつば等も他の企業との共同出資で参入している。

しかし,パックご飯の原料は,2万円/10aの助成のある加工用米の対象となっていない。冷凍チャーハンやピラフの原料は加工用米の対象となっている。その違いは「具材が入ったもの」という加工用の定義にあてはまらないからである。

(注)平成元年度のレトルト米飯や冷凍米飯などとして使用された原料米の使用量11万tのうち,加工用米が7万t,主食用米が4万tである(農水省資料)。

パックご飯の製品重量のうち原料の米は,半分を占めるので,加工用米が使用できると店頭価格はもっと安くなる。そうなれば,国内でも海外でも需要増が見込まれる。今後のパックご飯の需要及び米需要の拡大には,原料米の価格の低下が求められる(藤尾氏)。

 

災害用の非常食からアウトドア用,輸出商品へ-アルファ米

次に,「米産業に未来はあるか」で取り上げられているのは,アルファ米(乾燥米飯)である。

アルファ米とは、炊きたてごはんをそのままに、急速乾燥した加工米飯である。生米に含まれるデンプンは、人間には消化しにくい「ベータ化」の状態である。炊飯後,急速かつ水分をコントロールしながら乾燥させると、「アルファ化」状態を保てる製品となる。「アルファ化」状態の米に、水やお湯を加えると、ごはんやおにぎりとなる。最近では,アレルギー物質不使用やグルテンフリーの製品も販売されている。

乾燥米飯は,保存期間が5年間なので,災害用の非常食として利用されていたが,軽量であるとともに,食味が向上したため登山やアウトドア用としての用途が拡がっている。

新潟ゆうきは,業界最大手の尾西食品との直接取引を開始して3年目である。納入品種を共同で選定し,つきあかりとした。つきあかりは,早生なので,大規模生産者にとって作期分散のメリットがあった。取引数量は,初年度が381t,昨年度が500tと順調に拡大した。令和3年度は「水田リノベーション事業」を活用し,生産者(村上市,関川村,胎内市)を中心に,村上市及びJAとが連携し,「加工用米連携企画」を計画・推進している。具体的には,市や農協の非常用備蓄食品として活用することである。そのことを通じて,アルファ米の販路の拡大と安定販売を目指している(「保存食「アルファ米」の可能性佐藤正志」。

さらに,アルファ米も消費者ニーズに沿った商品の開発及び健康食品としても需要の拡大及び輸出商品としても期待されている。

グルテンフリー,アレルギー対応食品として需要増-米粉

 加工米飯とともに新たな需要を創造する可能性があるのが,米粉である。米粉は,元年年度の需要量は3万6000トンであり,前年の3万1千tから5千tの増である。コロナ禍で,土産品などの業務用の需要が減少したが,一方、巣ごもり需要が高まり家庭で料理・菓子用に使う需要は増加した。

 米粉の需要は平成24年度の2万3千t,25年度の2万5千であり,29年度まで横這いに推移した。その後,米粉の特徴をいかした「ノングルテン米粉第3者認証制度」や「米粉の用途別基準」の運用を30年度から開始した。30年以降になると,徐々に需要量が増加している。また,イオンがプライベートブランドで米粉のミックス粉や麺類商品を発売し、菓子メーカー・シャトレーゼ(甲府市)が米粉パンを販売するなど全国展開するメーカーや小売りが米粉を使用した商品開発を活発化させている。

(注)「世界のグルテンフリー市場は,順調に拡大しており,2024年には約100億$に達する見込み。平成30年6月からグルテン含有量「1ppm以下」の米粉を「ノングルテン表示」として「ノングルテン米粉製品第3者認証制度」を開始」(農水省資料)。

 米粉需要の停滞期及びグルテンフリーや用途拡大を契機に需要が拡大した産地での動きを大潟村あきたこまち生産者協会涌井氏が述べている。同協会は,新規需要米制度の発足(平成26年産)を契機に,製粉施設や製麺施設を建設し,米粉麺の製造・販売に取り組んだ。当初,営業を全国に展開したが,販売量が伸びなかった。その要因,米粉はグルテンがないことで小麦粉のような麺やパンが製造できないことである。そこで,米粉麺はアレルギー対応食品,健康食品であると提案したが,当時は,販売に結びつかなかった。

生産調整の対象作物として米粉用稲を栽培した生産者から2400tの米粉用米を購入したが,そのまま倉庫に眠ったままとなった。

 販売に苦戦している中,「テニスのジョコビッチ選手がグルテンフリー食品で世界1になった」との話を聞いた。協会の米粉製品を全てグルテンフリー商品として,改めて販路の拡大をすることに方針を転換した。その結果,2年の夏ころから大手量販店よりグルテンフリー食品やアレルギー対応食品に対する問い合わせが入ってきている。また,小麦粉は多くのスープ,カレー,ソース等添加物に使用されており,米粉が代替えすることによってグルテンフリー,アレルギー対応の食品に替えることかできる。その用途に沿った米粉の製造方法を開発した。今後,米粉は、グルテンフリー,アレルギー対応の食品,添加物として販路を拡大が可能である。

米粉生産の先駆者であり地域に根ざした新潟製粉の取り組みは,以下の通りである(「米粉需要はまだ伸びる」藤井義文)。98年7月に胎内市,農協及び民間企業による第3セクターで設立された。生産調整が強化される中で,水田の有効活用と地域の所得確保という関係者の願望を実現することを目的とした。

 米粉生産量は,現在,7000tであるが,2工場での生産能力は1万tである。連携企業は(株)たいない(米粉パン粉)及び(株)小国製粉(米粉麺)がある。製造方法は,圧偏ロール粉砕と酵素による2段階気流粉砕であり,でんぷん質のダメージが少なく,小麦粉と同等の細かい粉を製造している。

 原料は,設立の経緯から地元胎内市内を優先し,新規需要米制度を活用して調達している。

 販売先として県内90%の学校で米粉パン,米粉麺が使用され,神奈川県や愛媛県の学校で使用されている。ジョナサン(パン)リンガーハット(餃子の皮),チーズガーデン(チーズケーキ)等のメーカーが使用している。米粉はチーズの味をいかす利点があるとのことである。また,小林製麺はグルテンフリー米粉麺をアメリカに輸出し,日清シスコはシリアルを輸出している。

 さらに,グリコ栄養食品と藤井商店と連携し,新規需要の拡大をめざしている。

 また,米卸神明も2020年12月に神明米粉を設立し,米粉を製造・販売に進出した。フロレスタ(2020年買収)では,米粉100%のドーナツを開発した。また,モチクリームジャパン2020年6月に設立し,米粉のもちで包んだアイスやクリームの製品化し,女性中心に売れている。さらに,ビーガン用としてもち米粉でチーズの代替品を開発した。

 米粉は,様々な食品メーカーとの連携によって,米粉パン,麺以外の商品が開発され,その利点であるグルテンフリー,アレルギー対応の食品として需要が拡大しつつある。

 新規需要米制度により原料米は比較的安価であるが,それでも「小麦粉との価格差があり小麦粉代替品であれば,それに見合う価格のプレゼンが必要であり,米粉でなければいけない特徴をいかす」ことが求められている。前述の事例の他,イオンがトップバリューの新製品と「おこめで作ったふんわりパン」を販売し,さらに,30年度にグルテンフリーコーナーの開設するとともに、惣菜コーナーでもグルテンフリー商品を取扱っている。ケンタッキーフライドチキン「低アルギンチキンセット」(「骨なしチキン」「バナナケーキ」等でセット)販売を開始した。尾西食品では,アレルギー物質27品目不使用の新商品「おにし米粉パン」を販売した(商経アドバイス20-1-14)。以上のように,米粉の需要拡大のためには,各食品メーカーと産地,米粉業者との共同商品開発が必要である。

以上のように加工米飯および米粉は,米産業の成長部門として期待される。注目されるのは,米産業と他の食品メーカーとの連携により様々な新しい商品が開発され,新たな需要を創造していることである。この動きは,米生産者,農協,卸が精米販売から脱皮するイノベーションの契機となり,米産業の新たな方向を示している。また,米はグルテンフリー,アレルギー対応としての特性をもっており,国際的な需要拡大につながる。

しかし,無菌包装米飯を除く加工米飯や米粉の原料米には加工米制度や新規需要米制度の助成があるが,それでも,米粉は小麦粉との価格差があり,小麦粉の代替品との位置づけでは需要拡大が困難であり,同時に,米製品と小麦製品との価格差を縮小することが課題となっている。とくに,無菌包装米飯用の原料米への助成もしくは価格低下が求められている。

Share

Warning: Use of undefined constant column - assumed 'column' (this will throw an Error in a future version of PHP) in /home/apcagri/www/apc/wp-content/themes/apcagri/single20.php on line 57