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日本の農業:第256集:水田地帯における枝豆振興の現状と課題 -新潟県上越・中越地区-

■発行日:2021(令和3)年8月31日

■対象:日本

■編集:農政調査委員会

■報告:佐藤 奨平・西川 邦夫・平林 光幸・吉田 俊幸

■在庫:あり

■ページ数:131p.

■目次:

  • 要旨(吉田 俊幸)
  • 第1章 枝豆のサプライチェーン動向と産地戦略
    -現状分析と台湾産枝豆バリューチェーンの検討から-(佐藤 奨平)
  • 第2章 新潟県における枝豆生産の現状と課題(新潟県における枝豆生産の現状と課題 西川 邦夫)
  • 第3章 上越市における枝豆生産の振興とその実態(上越市における枝豆生産の振興とその実態 平林 光幸)
  • 第4章 中越地方における枝豆生産の展開構造-米価上昇・農業構造・収穫機械化-(西川 邦夫)
  • コメント 水田地帯における枝豆振興の現状と課題(吉田 俊幸)

■要旨より:

「第1章 枝豆のサプライチェーン動向と産地戦略」は日本での枝豆の生産・流通・消費動向を検討し,国内産の流通に匹敵する量が冷凍枝豆の輸入であることを明らかにした。そこで,冷凍枝豆の輸出国の台湾枝豆バリューチェーンの構築について検討し,国内の産地戦略を検討している。

 全国の枝豆の作付面積・出荷量は,19年現在,12800ha,4万9000tであるが,65年から80年までの2倍以上に増加したが,80~95年まで微減,95年以降,横ばいである。5道県が作付面積1000ha以上であり,全国の半分以上を占めている。北海道は,出荷量と出荷量の間に差がないが,その他4県では,出荷量は収穫量に比べると6~7割程度である。

流通をみると,卸売市場経由率は,地場流通や量販店等の直売が存在するため,約4割である。なお,東京都中央卸売市場には,主要産地からの枝豆市場に集まっているが,8月がピークであるが1~4月には入荷がない。大阪中央卸売市場は,東京都中央卸売市場に比べ,数量で1/29,金額で1/36,単価で1/2であり,主産道県から入荷は,殆どなく,台湾から入荷がある。大阪市中央卸売市場では,同じく数量で1/6,金額で1/7である。春季は,台湾産と近隣県産が主力であり,夏季(6~9月)は近隣産と主産県から入荷している。同時に,国内で流通する生鮮枝豆は,用途に合わせて産地別に幅広い価格分布となっている。

 輸入冷凍枝豆は,2019年で約7万5千tであり,生鮮枝豆の出荷量を大きく上回っており,増加傾向にある。主な輸入国は,台湾3万1925t(41.2%)タイ2万1555t(27.8%)中国2万796t(26.8%)である。台湾産は,国産と比べて価格優位性がある。

 台湾冷凍枝豆は現地企業と日本企業とのバリューチェーンを形成しており,同時に,現地企業は,100haを超える直営農場と周辺農家との契約により,収穫後すみやかに冷凍加工し,輸出できる体制を構築している。台湾産と対抗するには新品種開発と併せて新市場開拓イノベーションと持続的・戦略的マーケティングによる枝豆のバリューチェーンの構築が必要である。
「第2章 新潟県における枝豆生産の現状と課題」は新潟県における枝豆生産の現状と課題についての統計分析である。新潟県は作付面積では全国最大の産地であるが,収穫量に占める出荷割合は,62.8%と低く,自家消費が多い。作付面積は1500haで変化していないが,単収は低下傾向にある。「新潟県園芸基本戦略」により園芸作物振興が推進されているが,19年度には園芸作物は117ha増加したが,そのうち枝豆が59haを占めている。

地域別の作付面積をみると,これまで枝豆生産の中心であった下越で減少し,上越,中越で増加している。平均作付面積は,拡大傾向にあるが,とくに,上越,中越での拡大率が高い。
しかし,全県での単収が低下している。その要因は第一に収穫機械化による収穫損失の発生である。第二に排水対策の不徹底である。排水対策が徹底されないのは,10a当たり所得を比較すると,枝豆は水稲に比べて高いわけではなく,稲作への復帰を考慮しているためである。第三は,農協外出荷が存在するため,その部分が単収に反映されていない。第四は天候不順の影響である。

「第3章 上越市における枝豆生産の振興とその実態」は,上越市における水田農業構造を踏まえつつ,枝豆振興の現状と課題について統計・実態分析である。
上越市の特徴は,農地流動化率が56.5%と高く,大規模な水田農業経営体が形成され,30ha以上に2割の耕地が集中している。主食用と非主食用米の作付面積の合計は,横ばいに推移している。枝豆の振興によって,農協出荷者の枝豆作付面積は10年の8haから20年の56haへ,経営体数は10年の21経営体から49経営体へ,1経営体当たり作付面積は10年の40aから20年の114aへ増加している。しかし,販売金額,単価は横這いに推移している。
 上越市における枝豆振興の方策は,第一に産地交付金により枝豆所得を稲作所得及び大豆所得並の水準に確保していることである。第二は,枝豆の収穫機械を補助事業により大規模経営に導入していることである。第三は,農協のサテライト施設と出荷施設への作業委託することにより,選別調整作業の軽減である。以上の振興策によって,製品重量が200㎏以上ならば枝豆は稲作以上の収益をあげることができる。
 22の枝豆生産者からのアンケートによると,枝豆生産者は,20ha以上と1ha未満とに二極化している。1ha未満は1品種,20ha以上は複数品種となっている。収穫方法では所有機械で収穫もしくはJAから機械の借用,作業委託が全体の9割を占めている。1ha未満はハーベスタ,20ha以上が専用コンバインもしくはトラクタアタッチメント型となっている。単収水準は,ハーベスタ利用の経営では高く,収穫機械では低い傾向にある。

 枝豆の販売は農協のみが77.3%であり,農協以外の割合は低い。また,枝豆生産の目的は生産調整のためが65%を占め,課題は単収の低さとコストが高いことである。今後の意向は,「現状維持」が72.7%,「拡大」が27.3%である。

 実態調査4法人の枝豆生産面積は上越市全体の56haのうち27haを占め,機械化による効率的な枝豆生産を展開している。しかし,単収が200㎏以下であり,単収の向上が課題となっている。同時に,新品種の導入,野菜作の導入等を含めて拡大意欲をもっている。
 上越市の枝豆生産は,産地交付金,収穫機械の導入,農協による調整作業の支援のもとで成立しているが,単収が向上することか課題であり,その改善が実現すれば,稲作よりも収益性の高い作物になることか期待されている。
「第4章 中越地方における枝豆生産の展開構造」は,米価上昇・農業構造変動停滞下での収穫機械化によりJA越後ながおか,JA越後さんとうでの枝豆産地化の動き及び大規模枝豆生産法人の経営実態を明らかにした。JA越後ながおかの枝豆部会は14年に設立され,それ以降,部会員,作付面積は増加している。しかし,出荷数量は,作況や農協以外出荷量の変動により,安定していない。  部会員の作付品種は,全体で11品種であるが,稲刈りや乾燥調整との競合を避けるため早生と中生の茶豆が主力である。収穫作業はコンバインやトラクタアタッチメント型を所有,もしくは農協からの借入,作業委託による機械化が進展している。また,農協では選別ラインを設置し,地元及び東京に販売しているが,農協への出荷量は生産量の5~6割である。
 11名の部会員のアンケート調査によると,経営規模10ha以上が7/11を占めており,大規模経営が枝豆生産を担っている。20ha以上層とそれ以下とでは枝豆生産の目的と経営内容との間に違いがある。20ha以上層は,経営多角化の一環として稲・枝豆複合経営への展開もしくは志向している。そのため,品種数も多く単収も高く,枝豆の作付地は前後作による輪作を実施している。そのため,土地生産性も高い。収穫機械や予冷庫等を所有し,自己販売も行っている。 枝豆の作付拡大のためには,稲作作業との労働力との競合が課題である。さらに,枝豆の単収向上,所得増大も課題となっている。
 JA越後さんとうでは,寺泊地区の圃場整備の条件として,枝豆生産が導入された。20年産の作付面積は2.4haであり,JA越後ながおかと共同で販売している。枝豆生産者は米と枝豆のみの生産者が大半である。枝豆生産の経験がないため,高コストや低単収による収益性の低さを克服することか課題となっている。
 次に,枝豆大規模経営の二つの事例の分析である。A農産は経営耕地面積54.6ha,水稲32ha,枝豆9.8ha,もち麦5.4ha,大豆5.6haの経営である。茶豆を主力に10品種を作付し,枝豆作付地は輪作をしている。収穫はアタッチメント型を利用して,収穫から出荷まで一貫して行い,そのための労働力を雇用している。出荷先は農協7割,独自販売が3割であり,ネット販売も開始した。
B生産組合は,枝豆作付面積64ha,出荷量163t,単収(製品ベース)258㎏の十日町市に立地する枝豆専業の法人である。経営面積80~90haは国営開発された畑を集積した。作付率は7割とし3割を緑肥作物の作付する輪作である。播種は4月中旬から6月中旬,収穫は7月中旬から9月末まである。
播種から管理,収穫,選別,調整,出荷まで機械化している。セブン・アイHDの協力生産者であり,9割をセブン・アイとの契約・買取販売である。契約の品質を保持するために収穫後,コールドチェーンで半日以内に出荷している。
セブン・アイの生産,技術指導を受けるとともに堆肥を投入している。労働力は経営者と正職員は4名で臨時が35名の体制である。今後も枝豆の販路拡大が可能と考え,積極的に拡大することを考えている。
中越地区では枝豆と稲作との労働力競合が存在し,枝豆が稲作と比べての所得面で有利でないので,稲作農家での急激な規模拡大が困難である。しかし,AやとくにB生産組合のように規模拡大を通じて規模の経済を発揮する例も生まれている。同時に,二つの法人は,農協以外に販路を拡大していることも特徴である。


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