のびゆく農業:No.1052:中国農家における化学肥料の過度の使用とその原因
・中国農家における化学肥料の過度の使用とその原因
■発行:2021年4月30日
■解題・翻訳:山田 智子(農林水産省)
■対象:中国
■ページ数:45p.
■在庫:あり
■目次:
- 解題
- 中国農家における化学肥料の過度の使用とその原因
- 概要
- 1.はじめに
- 2.中国における化学肥料の使用状況
- 3.計量モデルの設計及びその回帰分析
- 4.分析結果の妥当性の検証
- 5.結論
- 参考文献
■解題より:
本稿は、中国では国際的に定められた基準値以上の化学肥料が使われている原因について、中国のほぼ全土を網羅する農家データを用いて使用状況を整理した上で、農家の属性、農地の規模、栽培する農作物の違い等を影響要因として回帰分析を行った論文「中国化肥高用量与小农户的施肥行为研究 -基于1995~2016年全国农村固定观察点数据的发现」(中国における化学肥料の過剰利用と小規模農家の施肥行為の研究 -1995年から2016年までの全国農村固定観察地点のデータに基づく発見-)の全訳である。筆者は上海交通大学管理学院農業経済コースの史清華教授とその院生高晶晶であり、中華人民共和国政府農業農村部農村経済研究センター職員、彭超の監修を受けて2019年10月に論文『管理世界』に掲載されたものである。
中国の農業においては、農業部(現農業農村部)が打ち出した『化肥农药使用量零增长行动方案』(化学肥料及び農薬使用量ゼロ成長運動についての方策案)(以下「使用量ゼロ成長運動」という。)に基づき、2015年から2020年までの間、化学肥料及び農薬の使用を改善するための各種取組が行われてきた。
この間の取組について、2021年1月17日、中国農業農村部はその概況を総括した《化肥农药使用量零增长行动目标顺利实现 ―我国三大粮食作物化肥农药利用率双双达40%以上-》(化学肥料・農薬使用量ゼロ成長運動における順調な目標達成について ―我が国三大食糧作物の化学肥料・農薬の利用率がいずれも40%以上に達したことについて―)を発表している。
この総括によれば、使用量ゼロ成長運動の大きな成果は主に次の5つである。 (1)使用する化学肥料・農薬そのものの改善とその使用構造(使用割合)の改善
(環境リスクがより低い有機肥料への切替えとその使用割合の増加)
(2)施肥技術の改善と普及
(土壌分析を行った上で施肥量を決めるだけでなく、機械を用いて施肥すること、施肥と水やりとを計画的に組み合わせて両者の使用量を適正化(節約)すること、農作物の栽培状況や病害虫の発生状況に応じて施肥すること等、技術の改善と普及を行うこと)
(3)肥料の共同分配及び共同使用の推進と、防除専門サービス組織の立上げ
(4)モデル地区におけるモデル作物での化学肥料及び農薬使用量の減量実証事業による、水と化学肥料、農薬それぞれの使用量の減量に向けた取組事例の創出
(5)専門家による地域別及び作物別に適切な化学肥料及び農薬の減量技術方策の策定とその普及
本稿で紹介したのは、この使用量ゼロ成長運動の出発点とも言うべき中国における化学肥料の使用状況と、その使用量が国際基準以上となっている理由について、中国の省及び自治区のうち、香港、マカオ、台湾地区を除く31の省等の300余あまりの農村約1.7万戸に及ぶ農家のデータを用いて分析を行なった論文である。
本論文によれば、中国における化学肥料使用量が国際基準以上となっている主な理由は、中国で化学肥料が用いられ始めた頃に中国政府が当時の貧弱な土壌状況に照らして策定した使用基準自体が現在の国際基準に照らせば過剰だったのであり、かつ、その使用基準が現在でもなお中国の農家における化学肥料の使用習慣として残っていること、にある。本論文はその結論に基づいて、中国当局に対して農作物別の新たな使用基準の策定、使用技術の普及等を提言しており、中国農業農村部が発表した総括に照らせば、正に、使用量ゼロ成長運動においては、上記(1)、(2)及び(5)に関連して、化学肥料及び農薬の使用基準、使用方法等を変える方向で取組が行われ、一定の成果を納めたこととなる。