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米産業・米市場取引に関する情報:その1(令和7年7月11日)

米産業・米市場取引に関する懇話会事務局((一財)農政調査委員会)

1.見解の分かれる需給価格動向

(a)懇話会のアンケート結果

今年産の需給価格動向について、見通しが不鮮明の中、「米産業・米市場取引に関する懇話会事務局」によるアンケート結果は、価格動向に関して見解が様々である。

表1・令和7年産の需給価格動向

表1・令和7年産の需給価格動向

【生産者の意見】

  • JAの概算金より高くなる。
  • 【理由】 集荷競争は継続している。備蓄米が少ない状態では現物確保を優先せざる得ない。
  • 作柄にもよるが、主食用米増産で「低くなる」

【JA関係者の意見】

  • 今現在、昨年よりも米出荷契約数が減っており、商系との価格競争が続いている。
  • 一次的に高値は見られるが、終息し、JAが買い支える。

【集荷流通業者の意見】

  • 収穫量が不安定なため、価格の目安が更に不透明になる恐れがある。備蓄米放出量の多いことと、7年産主食用米生産見込みが40万tを越える見込みが重なり、下方修正を余儀なくされると思われる。

価格動向をみると、生産者、JA関係者は、7年産は「前年と比べ高くなる」が過半を占め、ついで「前年と同水準」が4割程度であり、「低くなる」の回答は1/13にすぎない。集荷・流通業者は、3者に分かれている。

「前年より高くなる」と回答した背景には、JA概算金を上回る価格での複数業者の業者による生産者との契約取引が拡がっていることにある。そのため、一部のJAでは昨年より米出荷契約が減少している。つまり、産地での集荷競争が継続していることが、生産者、JAが「高くなる」と予想する背景にある。

(b)主食用米の需給見通し、価格見通し指数の大幅低下-米穀機構の令和7年の米の景況調査

  • 米穀機構の令和7年6月分の米の景況調査(DI)
    主食用米の需給動向のDI値は、前月と比べて現状判断、見通し判断ともに「大幅に減少」となった。 主食用米の価格水準のDI値は、前月と比べて現状判断、見通し判断ともに「大幅に減少」となった。
  • 日本農業新聞解説-向こう3カ月の需給見通し指数は前月までの73から43へ、過去最大の下げ幅。
  • 米価の見通し指数も前月の59から35へ、過去最大の下げ幅、新型コロナ禍での米価低迷時期の指数と同一水準。

(c)備蓄米の随意契約放出後、低下から上昇へ 堂島コメ平均10月限、12月限

堂島コメ平均の10月限、12月限価格動向をみると、備蓄米の随意契約放出後、10月限が27,750円から13日には25,400円へ、12月限は27,720円から16日には26,320円へ低下した。その後、先物価格は上昇に転じ、10月限は4日には、28,550円へ、12月限は9日の28,720円まで上昇した。

先物価格を動向みると、景況調査とはやや異なる動きを示している。

表2・堂島コメ平均 10月限、12月限価格動向

表2・堂島コメ平均 10月限、12月限価格動向

(出典:(株)堂島取引所)

今年度の需給・価格動向を決める要素は、第一は、7年産米の生産量(作付面積・終了)、第二は、産地での価格動向(農協概算金、農協以外の買受け競争)、第三は在庫水準、備蓄米の買戻し等が考えられる。

さらに、第1回懇話会で荒幡氏が提起したように、5、6年産は高温不作であり、7年産もその懸念がある。農水省は、斑点カメムシの発生が広い範囲で多くなるとしている。


2.各都道府県の主食用米等の作付意向

令和6年産実績と比較すると、全国的に主食用米の作付けが増加している(131.7万ha)。さらに、令和7年産米の備蓄米買入入札を当面中止していることから、主食用米及び備蓄米(1.7万ha)を合わせて133.4万ha(対前年7.5万ha増)となる。これは、平年単収(539kg/10a)で生産量を計算すると、719万t(対前年40万t増)に相当する。719万t(対前年40万t増)は、過去5年間で最大の生産量となる見込みであるとともに、増加の伸びも主食用米の生産量の調査を開始した平成16年産以降、最大となる見込みである。

詳細は以下のとおりである。

ア.主食用米
131.7万ha(対前年差+5.8万ha)増加傾向34県/前年並み11県/減少傾向2県

イ.備蓄米
1.7万ha(対前年差▲1.3万ha)増加傾向2県/前年並み6県/減少傾向20県


3.各都道府県の戦略作物の作付意向

ア.加工用米
4.4万ha(対前年差▲0.6万ha)増加傾向11県/前年並み4県/減少傾向29県

イ.新市場開拓用米(輸出用米等)
1.1万ha(対前年差±0ha)増加傾向10県/前年並み5県/減少傾向23県

ウ.米粉用米
0.5万ha(対前年差▲0.1万ha)増加傾向8県/前年並み5県/減少傾向33県

エ.飼料用米
6.7万ha(対前年差▲3.2万ha)増加傾向0県/前年並み3県/減少傾向43県

オ.WCS用稲(稲発酵粗飼料用稲)
5.3万ha(対前年差▲0.3万ha)増加傾向5県/前年並み4県/減少傾向37県

カ.麦
9.7万ha(対前年差▲0.6万ha)増加傾向14県/前年並み7県/減少傾向24県

キ.大豆
7.8万ha(対前年差▲0.6万ha)増加傾向4県/前年並み4県/減少傾向37県


4.各県JA全農・JAの概算金

各県の概算金は21,000円~26,000円と高水準であり、最低保証の県や長期固定の例を挙げる。

  • JA 全農あきた あきたこまち 24,000円/60㎏ 最低保証をめざす。
  • JA 全農岩手 ひとめぼれ23,000円、銀河のしずく23,500円、あきたこまち25,000円
  • JA 全農岩手、宮城は、3年固定価格の買取を提案。
  • JA 会津よつば コシヒカリ 25,000円
  • JA 全農埼玉 23,000円 
  • JA 全農茨城 21,000円 5年保証
  • JA 北つくば コシヒカリ26,000円程度買取、買取基金2億円 6年産契約対比98%の集荷・買取
  • JA 全農にいがた コシヒカリ 23,000円、主力の一般「コシヒカリ」は1等60kg当たり26,000円以上を目指すとの方針を県内JAに示したことが21日分かった。
  • JA かがやき コシヒカリ 28,000円 (最低保証価格)
  • JA 全農富山 コシヒカリ、富富富、てんたかく20,000円 (最低保証価格)
  • JA 福井 22,000円(最低保証価格)
  • JA 越前たけふ コシヒカリ内金22,000円、追加、精算払い5,000~8,000円
    生産者の意向調査等の結果
  • 滋賀JA、参考価格、コシヒカリ、みずかがみ24,000円、全農滋賀の在り方に基づく。
  • 愛知県内A農協 コシヒカリ、あいちかおり、あいちこころ 23,000円下限価格
  • JA 全農島根 コシヒカリ(上)は、1.9ミリのふるい目を使う一等米の「上」区分。他の品種は「きぬむすめ」が21,000円(6年産概算金より4,400円増)、「つや姫」が22,000円(同4,600円増)。
  • JA 全農鳥取 6年産より生産費払いを導入、6年産は集荷率3%増
    7年産主要銘柄一律60㎏当たり22,000円。
  • JA 全農山口 21,000円
  • 鹿児島県の複数のJAは、早期米を27,000~28,000円を提示(前年比8,000~9,000円高)
  • 北海道集荷業者 27,000円

5.各県、市町村の加工用米、輸出米等の支援策

主食用米の価格上昇にともない加工用米、輸出用米、酒造好適米の生産維持と確保について、JA、各流通業者、加工メーカが様々な課題を抱えている。そこで、県、市等で加工用米、輸出用米、酒造好適米の生産維持のために支援策をおこなっている。

(a)新潟県の県設定支援

図1・新潟県の県設定支援

新潟県の県設定支援

(出典:新潟県農業再生協議会・ウェブサイト)

新発田市、加工用米、輸出用米 1万円支援

(b)長岡市の支援策

図2・長岡市の支援策

図2・長岡市の支援策

(出典:新潟県長岡市役所)

(c)酒造好適米の支援等

  • 6年産 加工用米希望数量、22,276t(前年比98.6%、全農21,884t)
  • 日本酒造組合要請 水活助成金に酒造好適米を加えること。
  • 加工用米の助成金を20,000円から40,000円へ
  • 酒造業支援、秋田県 1億300万円、経費増額の半額助成
  • 長野県 県産酒米価格高騰対策費9437万9,000円、県奨励品種(美山錦、ひとごごち、金紋錦等)6年産から上昇分の1/2、地産地消費の推進
  • 高知県、酒造用米 4,000円補助、加工用米2,000円

図3・原料米の販売価格の推移

原料米の販売価格の推移

6.高温不作による令和5年産、6年産の生産量の推計

令和の米騒動の主要な原因となった5年産、6年産での「高温障害」にともなう米生産量について考察する。

第1回「米産業・米市場取引に関する懇話会」で荒幡克巳(日本国際学園大学教授)氏はその要因を「人災的要素と天災的要素」にあると指摘した。
天災的要素として、わが国の稲作の不作が冷害から高温不作に変化したことを提起し、5年産、6年産の収穫量が農水省の数値より低いことを提起した。

「令和5年産米、6年産米作況指数は100程度で不作のようには見えない。しかし、—–高温で粒が肥大、篩下米が不足、夏の夜温が高く、白未熟粒が多発、精米歩留まりが低下」「従来の冷害は低温により粒の肥大が進まず、小粒で篩下米が増加」(荒幡報告)

5、6年産米は高温不作というべき新たな日本の米不足のパターンである。
この視点から5、6年産米の供給量を考察する。

(a)5年産米の「コメ」の供給量

  1. 5年産米の供給量 主食用米669万tから661万tへ 8万t減(需給見通し) ……(a)
  2. 白未熟粒等が多発し、精米歩留りの低下
    • 精米歩留りの低下による精米流通量 農水省資料4年産6119千tから5987千tへ132千t減
    • 流通業者(大手6卸)歩留率1.4%減とすると精米流通量5949千t170千t減 ……(b)
  3. 篩い下米の発生量減少による主食用米の減少
    • 4年産篩い下米51万t、中米31万t 1.7㎜以下19万t
    • 5年産篩い下米32万t(19万t減) 中米21万t(10万t減)、1.7㎜以下11万t(8万t減)
      中米10万t減
  4. 加工原材料用米穀の供給不足
    • 4年産45万t、加工用米26万t、篩い下米19万t(51-19=主食用31万t)
    • 5年産38万t 加工用米27万t、篩い下米11万t(32-11=主食用20万t)
      中米10万t減、主食用米11万t減……(c)
    • 加工用米不足分(篩い下米)を主食用米から確保

5年産米の主食用米供給減の推計(a)+(b)+(c)=8+17+11=36万t+α供給減
-主食用米需要見通し681万tから705万tへ修正 24万t増
見通しと実際の需給ギャップ  60万tの可能性がある。


(b)6年産米も「コメ」供給量の状況

  1. 6年産米の供給量 主食用米679万t(7月の需給見通し669万t)
  2. 玄米の1等米比率75.9%(過去5年平均75.2%)
    精米歩留り 89.6%、過去5年の平均より0.6%低下、精米流通量 4万t減
  3. 篩い下米6年産米40万t(4年産比11万t減、中米25万t(4年産比6万t減)、1.7mm以下15万t(同4万t減) (c)の事例から中米4年産対比の6万t減が主食用米の減少
    精米歩留り、中米の発生状況から主食用米の供給量は見通しより10万t強減少
  4. 主食用米需要見通し674万t、前年度実績の705万tと比べ31万t減、705万tを基準として10万t減とすると、695万tとなる。

以上はあくまでも事務局の推計による参考数値である。

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