短報・コラム:農村女性起業とアントレプルヌース
―千葉県茂原市本納地区のフィールドリサーチ―
秋葉節子氏は、餅を均一に分けることができる「魔法の手」の持ち主であり、「魔法の手でみんなを元気にする」をキャッチフレーズとして加工所を経営している農村女性起業家である(注2)。本納地区は水稲、ネギ、植木、施設園芸が盛んであり、秋葉氏は、水稲、施設野菜、加工による複合的経営を展開している。「北のおもちやさん」では、自家生産したもち米「ふさのもち」を使用して、丸餅・生かきもち・おこわ各種に加工している(注3)。また視察者の訪問にも積極的に対応しており、自身が起業・経営において苦労した点や加工技術などを「企業秘密」としないでアドバイスするなど、オープンマインドによる良好なネットワーク形成を図っている点に大きな特徴があるということができる。
秋葉氏はこれまでに仲間との学習活動や、グループ活動を通じての生活技術向上、産直部会婦人部加入による消費者への伝達手法習得などを経験し、そうしたなかで、イベント「夢市場」において初めて漬物を販売したことが、起業のきっかけとなった。その後、1996年より「北のおもちやさん」を開業して、本格的な加工事業を展開するようになった。
また、茂原市女性農業者グループ「麦の会」の立ち上げによる茂原市農業のアピール活動、同市農業活性化協議会への麦の会代表としての参加、先述の直売所「旬の里 ねぎぼうず」の建設・運営に携わるなどの積極的な行動もあって、同直売所においては女性役員が増加し、加工品が直売所売上の25%を占めるようになった。独自のネットワークを駆使してイベントに参加したり、商談会で商品をPRしたりするなど、事業継続のために積極的な取り組みを展開していることも重要である。
秋葉家では2003年に家族経営協定(注4)によって役割を明確化し、秋葉節子氏は加工部門の主任となった。その後は、加工品が年間売上の半分以上を占めるようになったり、施設野菜であるきゅうりの収穫作業に新規雇用を導入して労働不足が解消されたりするなど、起業による効果が明らかとなっている。
今後の抱負として秋葉氏は、①農村女性起業家として、日々勉強し、消費者ニーズにあったオリジナルな商品開発を目指すこと、②ねぎぼうずの組合員として、仲間の商品が売れて、みんなが元気になるようにすること、③夫のよきパートナーとして、農業の良さを伝え、後継者育成と元気な農村作りを目指すこと、④私個人として、人とのつながりを大切にして、明るく前向きに頑張りたいと述べられた。
注:
(2)加工所「北のおもちやさん(PDFファイル)」については、千葉県ホームページ中の「長生管内の女性起業家と主な販売先」においても紹介されている。
(3)もち米「ふさのもち」については、千葉県ホームページ中の「水稲もち新品種『ふさのもち』の特性と栽培法」を参照。また「北のおもちやさん」における、ふさのもちを使用した各種商品については、関東農政局企画調整室編「News Letter関東(PDFファイル)」(関東農政局ニュースレター、2013年1月)を参照。
(4)農林水産省は、家族経営協定について、「家族農業経営にたずさわる各世帯員が、意欲とやり甲斐を持って経営に参画できる魅力的な農業経営を目指し、経営方針や役割分担、家族みんなが働きやすい就業環境などについて、家族間の十分な話し合いに基づき、取り決めるものです」としたうえで、2012年の家族経営協定締結農家数は全国で50,715戸となり、前年と比較して2,113戸(4.3%)増加したことを指摘している。なお家族経営協定についての詳細は、農山漁村男女共同参画推進協議会編『「家族経営協定」推進のためのヒントQ&A―夢のある元気な農業経営のために―(改訂版)(PDFファイル)』(同協議会、2013年3月)を参照。