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「意見ひろば」:食料自給率考

(2)求められる国内農業生産力に関する正確な情報提供

 国際的な食料需給見通しが環境問題も含めて極めて不透明な中で、国内の農業生産力を高めることが最優先の課題であることはその通りであろう。しかし一方、前記(1)で示したように耕地面積に対し圧倒的に人口が過剰である我が国の食料は、その多くを輸入に頼らざるを得ないことも事実である。そうであるとすれば、まず考えなければならない課題は、国内農業生産の向上とともに、如何にすれば国民に対する食料の安定供給ができるのかということではなかろうか。

 食料自給率の現状が80~90%程度と、国内農業が少し頑張れば問題がなくなるという程度であれば、食料自給率に目標を設定して国内農業の生産力向上に最大限取り組むという議論も十分考えられる。しかし、我が国の場合、中長期的に見ても当分の間、食料の過半は輸入に頼らざるを得ないことは明白な事実であり、食料自給率の目標設定でお茶を濁すような状況ではない。もっとも試験研究の発展により反収が急速に上昇するなどが見通せているのであれば別である。

 そうでないとすれば、自給率の目標設定の前に食料の安定供給の全体像を描いてみる必要があるのではなかろうか。いうなれば、従来の「農業・農村」に重点を置いた議論ではなく、「食料」に重点を置いた、「食料」問題からの視点である。

 そのためには、まず国民に対し、必要な食料を国内生産でどの程度カバーできるのか、その可能性を示す必要があろう。その示し方は、食料自給率であってもよいが、食料自給率となると現状の食生活を前提にしているために、いざという場合の国内農業生産の実力、可能性までは分からない。求められるのは、国内農業生産力を構成する様々な要素に関する様々な事態での実力と可能性に関する情報であり、それらの状況に合わせた食料供給に関する的確な情報の開示である。その意味で、平成37年を目標とした新たな基本計画に、「食料自給力」という概念が新たに付け加えられたことは一定の評価に値する。

 ただし、基本計画を審議した審議会には、農林水産省はそれなりの関係資料を提示するとともに何通りかの試算を行っているものの、検討の前提とした「想定する事態」の概念にかなりの甘さがあるのではないかということである。特に「想定する事態」が厳しくなればなるほど、問題となるのは「食料」だけではなくなる。四方を海に囲まれ、食料以外の資源にも恵まれない日本であるだけに、例えば肥料・農薬が欠乏する、電気やガソリンがなくて農業機械が使えない等々様々な事態が考えられる。そうした、より厳しい事態を想定した試算があって然るべきであり、特に国民に対しては最も厳しい事態を示すことが必要なのではないかと思う。食料問題に関する国民的議論はそこからしか始まらない。

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