「意見ひろば」:食料自給率考
4 むすびに代えて
食料自給率に関しては、以上いくつかの問題点を指摘してみたが、最後に次の3点について感想を述べてむすびに代えたい。
一つは、将来的に国際的な食料需給が厳しさを増すのであれば、自給率を向上させる近道は、科学技術力で食料を幾何級数以上に増やす計画なのかもしれない。例えば、αとβの違いはあるが同じグルコースからできているでんぷんとセルロースである。セルロースがコストをかけずに簡単な処理で食用になれば、食料の範囲は無限に広がる。ただし、環境問題は当然考えなければならない。
科学技術力を使った食料確保計画は、食料の範囲を広げないでも可能かもしれない。かつての日本では、二季作、二毛作が見られた。新しい技術開発等により三季作、四季作あるいは三毛作、四毛作も不可能ではないと思うし、多収穫の品種改良、栽培技術も決して夢ではない。
しかし、こうした計画は、すぐに結果が期待できるものではないし、現状では先の見通しが立っているわけでもない。まさに百年の計、長期(超長期ではない。百年は極めて短い)を見据えた取り組みである。残念ながら現在の社会は、超長期でも10年先しか考えない。人類の将来を考えるなら、科学技術力を使った食料確保計画は安い買い物だと思うが、そうした夢を持つ人が見当たらなくなったのが寂しい。
二つ目は、「日本型食生活」や食育の推進、そして食品ロスの削減促進についてである。これらは、そのこと自体が極めて重要な問題であり、国を挙げて、力を入れて取組むべき大きな課題であると考える。その結果として、食料自給率の向上に結び付くのであれば大変結構なことだと思う。
しかし、新基本法の哲学にしても、それに基づく基本計画にしても、食育等は、「食料自給率の目標」の傘の下にしか位置づけられていない。食料消費が、何故食料自給率の項目の中に位置づけられているのか理解に苦しむ。発想が全く逆転しているのではないのか。これでは、日本人が長いこと培ってきた食べ物に対する感性(感謝)や「もったいない」精神を台無しにするだけではなかろうかと思う。
三つ目は、都道府県別の食料自給率についてである。
農林水産省はそのホームページに都道府県別の食料自給率を公表し、県ごとに前年に対し自給率が向上した、低下したと評価している。6次産業化や地産地消を進め、地元農業の発展に努めている姿は、食料自給率とは無縁ではなく、また環境問題にも貢献するので大変結構なことだと思う。
しかし、一方で、地方創生が国を挙げての最重要課題の一つになっているが、その背景を考えると、相変わらず地方から首都圏への一極集中の動きが止まっていないことに思いが至る。
先にもみたように人口減は、食料自給率上昇の大きな要因の一つである。高齢化も一般的には影響があるとみてよいであろう。自給率向上の中身を精査せずに、単純に評価すべきことなのだろうかと思う。